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インタビュー

エンジニア「体験」から発展した「人間らしさ」を尊重する組織開発。

今回ご登場いただくのは、個人事業主としてメガベンチャーからスタートアップまで名だたる企業をわたり歩いてきた長南雅也さん。ゲームプログラマーとしてキャリアをスタートさせ、現在は正社員としてクラスメソッド株式会社で組織開発を行う長南さんのキャリアの変遷を辿りながら、大切にしている思いや、今後の展望をうかがいました。

 長南雅也さん
クラスメソッド株式会社 CX事業本部
※  2023年5月現在

やりたいことに見合った働き方でキャリアをつくっていく

ー長南さんは個人事業主であった時代が長いのですよね。

はい。最近まで社員経験はほぼなく、ゲームプログラマーからキャリアをスタートし、20〜30代のほとんどを業務委託の働き方で仕事をしてきました。社員経験は、今の会社を含め2社だけです。IT業界は業務委託にポジションを解放しているところも多く、業務委託の方が収入は多く得られることもあって、社員になるメリットをあまり感じられなかったんですよね。

ー現在は社員としてクラスメソッド株式会社にいらして、どんなお仕事をしているのでしょうか。

クラスメソッドは従業員700人規模のIT企業で、エンジニアが多いのですが、私は100人くらいのメンバーがいるCX事業本部という部門で、組織開発を実践しています。

具体的には、部門の100人で対話会をしてみたり、他部署から「チームビルディングをしてみたいけど、どうしたらいいかわからない」といった相談を受けて、チームビルディングのワークショップを行ったりしています。基本的には、コーチングやファシリテーションの手法を用いて、組織をより良くする活動を促すのが役割ですね。

キャリアの根底にあるエンジニアカルチャー

ーキャリアのスタートは、ゲームプログラマーだったのですね。もともと興味があったのでしょうか。

自分自身がゲーマーだったこともあって、ゲームを作ることに憧れていました。将来の夢として、小学校高学年の頃には「ゲームプログラマーになりたい」と話していましたね。

実際に憧れの職業に就けたのですが、「理想と現実」みたいなところでいえば、働く環境はひどかったですね(笑)。あと、個人的にショックだったのが、ゲーム制作において、ユーザーをどうハッピーにさせるかよりも、どう中毒状態に持っていくかを考えていたということです。

ちょうどオンラインゲームブームが始まったタイミングで、海外ではネットカフェでゲームをやりすぎて過労死をする事件も起きていました。そのニュースを日本で見ながら「私は何を作ってるんだろう」と思っていました。同僚が心を壊してしまうなかで、身近な人を大切にできていない状況や、ユーザーへの配慮のなさといった問題が積もり積もって、2年ほどで辞めました。

ー憧れであったゲームプログラマーから離れて、どのようなキャリアを歩まれたんですか?

会社を離れる時に僕が「もっとユーザーのことを考えてゲームを作りたいんだ」と言うと、当時のプロデューサーが「ユーザーのためのものづくりなら、ゲームじゃなくてもいいのではないか」という話をしてくれたんです。当時、インターネット業界が伸びているタイミングだったこともあり、ウェブエンジニアとして働き始めました。

いくつかのプロジェクトを経験するなかで、大きなプロジェクトでは、プロジェクトの管理が必要だと分かってきて。2〜3人の少数のチームでやっていたので、いつのまにか私がプロジェクトマネジメントに手をつけていました。

たまたま周りにプロジェクトマネジメントのできる人がいない状況が続いて、プログラマーとしてものづくりに携わることから、プロジェクトの計画や管理をする方へとシフトしていきました。

ユーザー視点のものづくりを志す

ー役割を広げられるなかで、ものづくりへの考え方も変わっていかれましたか?

変わらないですね。もともと僕自身がゲームのヘビーユーザーで、作る側に回ってからも、「クリエイターは自分のようなユーザーの気持ちを考えていてほしい」と思い続けています。ゲーム以外のものづくりに関わるうえでも、ターゲットの中に自分がいて、自分のことを考えてほしいという気持ちがあるのかなと思います。

ウェブエンジニアやプロジェクトマネージャーとして仕事をしていくなかで、要求に沿ってシステム開発をすることはできても、エンドユーザーの期待に応えたり、マーケットを捉えたりといったことには関われないということを実感したんです。それで、改めてエンドユーザーやマーケットに近いポジションを経験したいと思い、ウェブディレクションにも仕事の範囲を広げていきました。

ーユーザー視点というのは、今のキャリアにつながるところもありますか?

つながりますね。組織開発の文脈で「従業員体験」という言葉があります。やっぱりターゲットの中に自分がいるなということは、すごく最近感じているところです。従業員のためを思って組織の仕組みを改めることは、自分に返ってくることなんですよね。そのためにも「社員」という働き方を今は選んでいます。

その人らしく仕事ができる環境を作りたい

ーそもそも組織開発の仕事に向かっていかれたのは、どのような流れだったのでしょうか。 

業務委託としてチームマネジメントや人事評価に携わっていたことがあったのですが、30歳前後のエンジニアの人たちがびっくりするくらい自分のことを言葉にできていないのを感じたことがあるんです。よく言われる「Will(やりたいこと)-Can(できること)-Must(やらないければならないこと)」のフレームワークを使って「Will(やりたいこと)」を書いてもらったのですが、「こうありたい」「こうなりたい」のなかにその人らしさを感じる言葉がなく、ちょっとゾッとしてしまって。そこから課題意識を持ち始めました。

エンジニアの仕事は自分らしさを出す機会がないのではないか、人事や採用には力を入れても育成や評価がすごく手薄になっているのではないか、と考えて。「人に配慮するポジション」がなぜこんなにもこの業界やエンジニア組織にないんだろうと違和感が生まれたのがきっかけです。 

ーそこが組織をより良くしたいと思うきっかけに。

エンジニアって、あまり話が通じないとか、コミュニケーション下手だと思われていていることがあって。その割に会社の中ではエンジニアだけが隔離されて、コミュニケーションを奪うような企業の環境も目にしてきました。そんな状況を変えて、過ごしやすいようにできないか、という思いはあります。

「対話」を通じて、人間らしく働ける組織開発を

ー長南さんが大切にされていることに「対話」もあるとお聞きしています。対話の重要性を意識されたのはいつ頃からでしょうか。 

たまたま映画の業界でUXデザインやユーザーリサーチの仕事をしていた時に、フィールドワークとして上映会をする機会がありました。上映後に対話の時間を作ったら、めちゃくちゃ話が盛り上がったんです。作品観賞後の対話では、自分らしさや自分の気持ちを言葉にできると感じたことが大きなきっかけでした。

そこから、これを会社の中で起こすにはどうしたらいいんだろう、会社の中で起こせなければ会社の外に場所を作った方がいいのか、などと考えながら映画作品を使ったワークショップを始めました。

2018年の六本木アートナイトでは、参加者同士が対話しながら作品を鑑賞する対話型鑑賞に出会って、そこから京都芸術大学の対話型鑑賞プログラムの講座も受講しました。

ー長南さんが映画のワークショップを始めた時は、一般の人向けだったのですか。 

一般の人向けでしたが、頭の中では、会社の中にいるエンジニアを意識していたところがありました。特に20代の頃のエンジニアだった自分を思い返すと、心を殺しながら仕事をすることでコーディング性能が上がって成果が出せるけれど、そのかわりに人間らしさを損ねてしまっていたことにも気づいて。そんな人にどうやったら人間らしく仕事をしてもらうことができるのかなというのをイメージしながらワークショップをしていました。

ーなるほど。今のお仕事にもつながっていますね。長南さんが組織開発で扱われるのは、基本的にエンジニアの組織でしょうか。

エンジニアだけがターゲットではないと思っています。「エンジニアって何者なのか」を抽象化して考えると、基本的にめちゃくちゃ個性的なんだけど、個性的なために生きづらさを感じている人たちです。アーティストも浮かびますし、マイノリティな人にもターゲットを広げていきたい気持ちがありますね。

人のクリエイティビティを引き出すためにも、学びを続ける

ーご自身の今の活動について、ロールモデルみたいな人はいますか?

そうですね…しいてあげるならティム・ブラウン(アメリカ合衆国カリフォルニア州パロアルトに本拠を置くデザインコンサルタント会社 IDEOの共同会長)でしょうか。デザイン思考のように再現性のある考え方を提供して、広めていくのがすごくかっこいいと思っていて。

あとはデンマークにカオスパイロットという、起業家が行くような学校があるのですが、その校長のクリスターもそうかもしれません。日本でのワークショップに参加して、クリエイティブリーダーシップの考え方などを学んだことがあります。人のクリエイティビティを引き出して、社会的な成果に結びつけることはやっていきたいし、その伝道師みたいな人はロールモデルに近いところがあるのかなと思います。

ーいま42歳で、例えば40代後半になった時に、仕事としてどんなふうに広がっていきそうでしょうか。 

今後はアプローチ方法を変えていきたいという気持ちはあります。自分が直接現場に行くのもすごく大事だと思うけれど、それだと自分の手が届く範囲に収まってしまうので、研究というか、再現可能な方法をオープンソースみたいに広げていくようなアプローチも取りたいなとも思います。

ー年齢を重ねても学び続けていかれるのですね。

これからも学び続けるでしょうね。業務委託で働いていたのは、例えばエンジニアからウェブディレクターなど、現場でより学びがある方へと切り替えられることに味を占めていた部分もあったのでしょうね。短いプロジェクトであれば数ヶ月から1年で職場を変えてきたので。IT業界は勉強会をたくさんやっていることもあり、それが当たり前な世界にいたので、学び続けることが自分に染み付いているのだと思います。

ー貴重なお話をありがとうございました。

インタビュー・編集:扇本英樹 (株)Sparks
執筆:梅田梓

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