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インタビュー

ソーシャルグッドなビジネスで新しい道を切り拓き、健やかに生きていく

今回ご登場いただくのは、2022年にGOZEN(ゴゼン)というM&A仲介サービスを立ち上げた布田尚大さんです。大規模なM&Aが注目される一方、布田さんが取り組むのは、ソーシャルビジネス・スモールビジネスに特化したユニークなM&A。大学院で社会学を研究し、会社員を経て現在にいたるキャリアや、これから迎える40代の展望をうかがいました。

布田 尚大さん
株式会社drapology CEO / GOZEN代表
株式会社feast取締役社長
※2023年5月現在

M&A仲介とブランド経営の2足のわらじ

ー最初に、現在の布田さんのお仕事や活動について教えてください。

大きく2つありまして、1つめは株式会社drapology(ドレイポロジー)の代表として、GOZEN(ゴゼン)というM&Aのサービスを行っています。新興企業のM&A仲介で、若いファウンダーの方が作った素晴らしい事業をさらに拡大することを目指しています。昨年7月にローンチして、直近はOYAOYA(オヤオヤ)という京都の乾燥野菜ブランドのM&Aをアレンジし、創業100年を超えるグローバル刃物メーカーである貝印株式会社にご縁を作ることができました。

◆GOZEN主催イベント

【オンライン・オフライン同時開催!】- GOZEN presents 「OYAOYA」と「貝印」がM&Aで目指す、ソーシャルグッドな世界とは?

(gozen4.peatix.com)

2つめは、feast(フィースト)という下着ブランドの経営をしています。起業家のハヤカワ五味さんが大学生の時に作ったブランドです。小さいバストの方に向けたアイテムに特化していて、バストの小ささも体の美しさのひとつだというパーパスを持っています。直近の4年くらいCOOや取締役社長というポジションで経営をしてきました。あとはサブ的な仕事ですが、スモールビジネスの経営経験を活かしながら、メンターの活動もしています。

ハードに働いて遊ぶ。今につながる「社会人の基礎力」を培った6年間

ー今お話していて布田さんはエネルギッシュな印象がありますが、はじめからキャリアに全力投球されていたのですか。

大学院の修士課程を経て、博士課程もいいかなと思ったこともありますが、学問の世界にいると社会にインパクトを与えられないのではと考え、ビジネスの世界に入りました。

展示会の企画運営会社の営業職として入社したのですが、猛烈な営業スタイルの会社でした。社内のいたるところに、個人が月に何社契約を取ってくるかを書いた紙が貼ってありました。大学院の頃はマーケティング理論などが好きだったこともあって、全然違うところに入っちゃったかなと思った記憶があります。

ただ、「数字に責任を持つ」「電話はなるべく早くとる」など、社会人としての基礎力は鍛えられたと思っています。M&Aは法人営業の世界なので、法人営業の肌感がわかるという点では、この時期の経験は大きいと感じます。

結果的に、6年間在籍しました。大学院の時には朝から夜まで図書館にいて、帰って寝るだけという生活だったので、シンプルに遊びたいと思っていたところもあって。「死ぬほど仕事して、死ぬほど遊ぶ」みたいなことをしたかったんですね。休日はみんなでパーティとかバーベキューとか、そういうことをしていました。

会社員の後半3年くらいは、東日本大震災が起きて自分自身が変化した部分でもあるのですが、「ソーシャルグッド」なことをしたいという気持ちが増していき、INHEELS(インヒールズ)というエシカルファッションのブランドのプロボノをしていました。

ソーシャルグッドな事業を、M&Aで健全に加速させる

ーエシカルやファッションという領域にはもともと興味があったのでしょうか。

これは今でも変わっていないのですが、もともとソーシャルグッドなことをしつつも、メイクマネーをするということに興味があったんです。それでINHEELSは、まだSDGsという言葉もない時代に、エシカルファッションで六本木のクラブにも踊りに行ける服を作ろうとしていたのがすごく魅力的だなと思いました。

INHEELSは小さいベンチャーだったのでそれだけで食べていくのは難しく、同時に別の会社にも入社して、そこで副業のような形で働いていました。ブランドが好きだし、やりたいし、やれることもある気もするからやってみようと。自分なりに、本を読んだりして勉強をしながら2019年にブランドがクローズするまでやっていました。

ーいまも経営されている下着ブランドのfeastとはどのような出会いだったのでしょうか。

feast が厳しい状況の時に、「COOを探しているけれど、布田さん興味ある?」と聞かれたのがきっかけです。僕はfeastを創業したハヤカワ五味さんをSNSで一方的に知っていたので、ハヤカワさんと仕事ができるって面白いなと、そういう気持ちが大きかったかもしれません。

当時、ハヤカワさんは別の会社を立ち上げて経営していたので、入ってみるとほぼゼロから作るに等しい状況で、人を集めるプロセスなど大変な部分はありました。経営の分野にも仕事が広がって、人にアドバイスをもらったり、通販ビジネスや広告の本を読んだり、人を採用するとなったらコーチングの本を読んだり、必要な時に勉強をしながらやっていきました。

ただ入って2〜3ヶ月後にコロナが始まったこともあり、ECサイトでの売り上げが伸びて、10ヶ月くらいで経営も軌道に乗ってきました。

ー布田さんは、立ち上げフェーズの混沌とした状況を楽しめるんですね。

そうですね。最初に入社した会社で抵抗があったのが、ビジネスモデルが確立しきっていることだったんです。もちろんそれで成果も出ているのですが、外部の知見を吸収して活かす意識があまりなかったと勝手に思っているんです。立ち上げのなかで自分で学んだことをビジネスに活かせて、収入につながるのは面白いですし、学んでいくと世界が広がる感じはすごく楽しいですよね。

ーfeastは布田さんがM&Aをして、売却をした上で今も運営を続けています。この時のM&Aはどういった経緯だったのでしょうか。

そもそもfeastに入る時に、立て直したらM&Aをゴールにしましょうということは、ハヤカワさんと僕とのあいだで合意をしていました。それを本格的に始動したのが2021年からです。初めてのM&Aなので、見よう見まねでいろいろな方のお話を聞いたり、資料を作ったり、知り合いの方やM&A仲介みたいな方々にお願いをするなど、あらゆる手段を講じて「草M&A」をしていたような感じです。M&Aは正直、すごく順調だったわけではなく、途中までいい感じだったけれど辞退されてしまったこともあります。決まったのは本当にご縁だなという感じです。

ーそれがM&A仲介サービスのGOZENにつながるということかと思いますが、M&Aを事業に選んだのはどのようなお考えからだったのでしょうか。

まず、ソーシャルグッドなことに興味を持っている自分が、M&Aをするっていうのが面白いなと思ったんですよね。そもそも、そういった業態は小商いでやっていこうとされる方が多いですよね。それを健全に“肉食的”にやっていくというか、資本市場でも評価されることを指向するというのが自分らしいなと思ったのが一つです。

M&A仲介自体は利益率が高い性質があるので、やりたいことと収入や生活のバランスを考えた時に、M&Aはすごく良い選択肢だなと思ったんです。志とそろばんの両方という感じですね。


才能をもったクリエイターを勝たせたい

ー昨年7月にGOZENを立ち上げられて、ほぼ1年やってこられてどんな感触を持たれていますか。

めちゃくちゃ面白いし、可能性があるなと思っています。M&Aは決まったディールの何%という商売なので、当然みなさん大きな企業をやりたがります。ただ僕は、やはりクリエイターが作った事業が加速していくことがすごくいいと思っていて、今はそこをやるプレイヤーがあまりいません。ユニークネスがある事業だと思っています。やっぱり、クリエイターが好きという気持ちが根本にあると思いますね。 

そしてファウンダーは20代の若い人が多いのですが、才能を持った人が社会的にインパクトを出していくときにM&Aはすごくいいと思っています。最初にお話ししたOYAOYAという野菜のブランドを立ち上げた方も20代です。その方はM&Aをした貝印さんの子会社の取締役CEOとして引き続き事業に参画されますが、貝印のアセット(資源)を使って新卒4年目ぐらいの立場の人がそれをできるって、すごくいい経験だろうなと思います。才能を遺憾無く発揮できて、一定のキャッシュも得られるということは、昔のように商社の人が勝ち組、みたいなことではなくなってくる可能性がある。僕はそれがすごく面白いなと感じます。

ー「ものを作る人を戦略的に応援していくこと」が布田さんのキャリアの中心にありそうですね。

クリエイターが好きという部分もあるのですが、僕自身は凡人だと思っているので、クリエイターの人たちに輝いてほしいんですね。「スラムダンク」の安西先生のような気持ちで、「なんとか勝たせてあげたい」っていう感じでいます(笑)。

「とにかく普通じゃつまらない」。40代はユニークネスをもった存在に

ー今年40歳を迎えるタイミングですが、40代をどんな時期にしたいとか、想像されている部分はありますか。

なんだろうな。ポケモンってあるじゃないですか。ポケモンは進化して姿を変えていきますが、自己認識としては、M&Aを始めて、ヒトカゲからリザードくらいには進化したかな、という感じなんですよね。ここから先は、より羽ばたいていく、それはより社会的なインパクトを与えるという意味でも、収入面という意味でもそうなのですが、リザードからさらに進化したリザードンになっていく10年かな、ということを思っています。

ーいいですね、めちゃくちゃエネルギーが溢れている気がします。今回お話を伺って、布田さんは、これまでなかった新しい流れを作る活動をされている印象を受けました。

働くのも好きなんですけど、時間は有限だなと感じているので、だからこそ健やかに生きていく方法を模索しているところもある気がしますね。

振り返ると、大学院の時に教授から叩き込まれたことがあって。どういう研究に価値があるかという話なのですが、既存の問題体系の中で解明されていない部分を研究するのも価値があるけれど、一番価値があるのは、誰もが思っていなかった「問題そのもの」を見つけて行う研究だと言われたんです。その影響も受けていると思います。

あと、僕はヒップホップが好きなんですけど、BUDDHA BRANDというヒップホップグループがいて、「普通じゃダメなんだよ。とにかく、普通じゃつまんないんだ」んだという名言があるんです。それにすごく共感しているというか。本当にユニークネスをもった存在になっていけるとしたら、この40代かなと思っています。

ー貴重なお話をありがとうございました。

インタビュー・編集:扇本英樹 (株)Sparks
執筆:梅田梓

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