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インタビュー

40代は非効率な時間を楽しみながら、「協働的な場づくり」を追求していく

今回は、青山学院大学の履修証明プログラム「ワークショップデザイナー育成プログラム」の事務局長、中尾根美沙子さんにご登場いただきます。今年で15年目を迎える同プログラムで、人と人が学び合い、成長する現場に立ち会ってきた中尾根さん。ワークショップに対する思いや、ご自身のキャリアについてうかがいました。

中尾根 美沙子さん:青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム事務局長
                             青山学院大学社会情報学部プロジェクト准教授
                             ※2023年3月現在

プロジェクトの切れ目を乗り越えて

ー ワークショップデザイナー育成プログラム(以下、WSD)は2009年に文部科学省の助成金を受けた事業としてスタートしました。中尾根さんはその立ち上げからずっと関わってこられたのですよね。

そうですね。2008年に国から3年間の助成金をもらって、1年準備をして2009年から受講生を受け入れました。大学のプロジェクトはよく“助成金の切れ目がプロジェクトの切れ目”といわれます。実は、最初はそこまでだと思っていて、3年だけ頑張ろうと歯を食いしばっていたところがありました。ところが講座が始まると本当に反響が大きくて、独立採算として大学内で続けていける道を模索したという経緯です。

ー今は、通学対面授業とオンライン授業のハイブリットコース(オレンジコース)と、全オンライン授業で受けられるコース(ブルーコース)の2コース制で、受講の説明会がWSDの公式サイトで告知されると、すぐに定員が埋まっていると聞きました。ここまで伸びてきた要因としては、どんなところがポイントだと思いますか。

ワークショップデザイナーという言葉が、不思議といろいろな領域の人を集めてきてくれるんですよね。私やこのプログラムを立ち上げた青山学院大学教授の苅宿俊文先生は教育畑なので、もともとは地域教育に関わっている方々に向けてこの講座を開いたんです。けれど、講座が始まると本当に多様な分野から受講生が集まってくださって。社会の中でコミュニケーションの場づくりの専門性が、こんなにも必要とされていることに驚きました。

先日も、受講生との会話の中でデザイナーの方がおっしゃっていたのですが、これまでだったら話を聞いてデザインを納品するだけでよかったけれど、一緒に作っていくプロセスも含めてデザインに落とし込むことが商品(価値)になると。また、上司にWSDを勧められたというIT系の会社の方も、今はただ一方的に売ればいい時代ではなく、お客さんとコミュニケーションするプロセスが重要で、そこをうまく調整できるスキルが求められるようになったとおっしゃっていました。やはり世の中が変わってきて、人と人とがコミュニケーションを取りながらプロセスを共有して、物づくりをすることが定着していると実感します。

ですので、こういった社会的なニーズの高まりと、もともと持っているワークショップという言葉の多様性が、WSDが15年間も続いている結果につながっていると思います。

ー 中尾根さんの現在の仕事内容としては、どのようなことがあるのでしょうか。

仕事内容と言われるとすごく難しいのですが、何もかもやっているというか、講師として教えてもいますし、カリキュラムの改善や、オンデマンド教材の制作、15名ほどいるスタッフのマネジメントや、受講生を募集するにあたっての広報も担当しています。学内のさまざまな部署との連携も重要な役割の一つです。

ー 学内のさまざまな部署との連携も当初から中尾根さんがなさっていたのですか?

そうですね。今でこそ大学でのリカレント教育が定着してきていますが、当時はまだ前例がなかったので、学内の方の理解を得るための仕事も時間をかけてやってきました。教室ひとつを借りるにもルールがないので一苦労でした。講座のカリキュラムをゼロから作ることも大変でしたが、大学の中で定着させる難しさも多くありました。

年々応募者の数が増えて、グッドデザイン賞などいろいろな賞をいただく中で、学内でも認知が広がり、応援してくれる方も増えてきました。昨年からですが、受講中は大学の学籍が与えられるようになりました。

「世の中、正解だけではうまくいかない」

ー 修了生の方を見ても、本当にいろいろな背景の方たちが受講されていますね。

バラバラであることが面白いんですよね。共通言語がない中で合意形成をする難しさを実感する体験が重要で。言葉だけで「協働的な学び」を知るのではなく、それがいかに大変か、それと引き換えに得られる学びの効果を実践を通して学んでいただいています。

ー 本を読むなどの独学とはまた違う学びがあるのですね。

講座のもうひとつのコンセプトとして、学び手として成長してほしいという思いも持っています。教えられたことをただインプットするのではなく、実践の中で起きた出来事に意味づけをして、他者との学び合いを通して、自分なりの「納得解」を生みだすといった、大人の学び方自体を学んでもらうことも大切にしています。この考え方は、受講生の平均年齢である40歳くらいの方にフィットしているように感じます。

ー 確かに年を重ねてこそという側面もあるのかもしれませんね。

その年代の方は、世のなか正解だけではうまくいかないことを体感していて、シンプルにわかってくださるんですね。私は学生も教えていますが、「答えはなんですか」とか「事前にやり方を教えてください」と正解を知りたがる傾向が強い学生も一定数いると感じています。大人になってもその価値観が根付いていると、WSDを受講しても最初は苦労をする方が多くいます。しかしいくつかの実践を通じて学び合いを繰り返す中で、少しづつ学びほぐされていき、その人の中の「学び」の概念に広がりが生まれている気がします。

15年間、多くの学ぶ大人をみてきて感じることは、「起きたことを全て学びに変えられる人」が伸び率が高い成長ができるということです。WSDの中でも、グループワークがうまくいく、いかないなど学び合いのプロセスには様々なことが起こります。そのひとつひとつの経験を自分なりに意味づけができて、俯瞰的視点で捉え直して学びに変えられる力がある人って、成長の伸び率が高いんです。そういう人が育っていくサポートがしたいと思っています。

子育てと仕事、「効率重視」の30代を経て

ー 中尾根さんご自身のキャリアについてもうかがいたいのですが、先ほどおっしゃっていたように「なんでもやる」という仕事の仕方は最初から違和感がなかったのでしょうか?

私のキャリアは大学の恩師で、WSDの代表でもある苅宿先生の元で働くところからスタートしているのですが、やはり先生の育て方が、なんでもやらせるところもあって、慣れましたね。「活動することが学びである」という、先生の名言があるんです。学びは活動した後についてくるものだから、まずは活動する。それが全てに染み込んでいて。

「これは何のためにやっているのだろう」と思うことがあると思いますが、自分の中でそれを考えすぎないようにして、とにかく動いて行動する。その精神が自分の根本にあるので、新しいことが立ち上がったのに立ち消えになるとか、最初言っていたことと全然違うことが起きるとか、よくあるのですけど、うまくいかなかったプロセスも学びに変えて常に前に進むようにしています。

ー 苅宿先生との出会いも大きな要素でしょうか。

そうですね。大学で出会って、いろいろと巻き込まれ(笑)。強烈な無茶振りの仕事を通して、推進する力とか、コトを起こして、どういう道筋を立ててゴールに行けばいいのかというプロジェクトを動かすマネジメントの力が自然と身につけていったというのはありますね。やっている時はわからないですが(笑)。

ー その中でWSDを立ち上げ、10年以上続けてきたのですね。

立ち上げ当初は私も若かったので、自分よりキャリアが上の人の前に立たなきゃいけないプレッシャーもありました。今でも覚えていますが、初回の講座では、うまくプロジェクターがつかなくて冷や汗ダラダラという、そういう苦い経験もたくさんあります。当時はスタッフもいなかったので一人でキャリーケースを2,3個引きずって教室に行ったり。徐々に仲間が増えて、今では、講師も担任もスタッフも、苅宿先生と私以外の人たちはほとんどがWSD修了生です。修了生に支えられ継続している講座であることが私の誇りです。

ー 中尾根さんご自身は、今後についてどんな展望を持ってらっしゃいますか?

やはり、WSDを続けていきたいなというのは改めて強く思っています。WSDの修了生同士がつながり合って、社会に対して価値ある場づくりを実践している事実を見聞きすることが最近多くあります。だからこそ私はその最初の部分で良質なつながりを作るために、ワークショップデザイナーを輩出することは絶やさずに行っていくべきだと感じています。

今改めて振り返ってみると、WSDの立ち上げとともに子育てに追われてきたこともあって、直近は家庭と両立しながら効率的に働くことを意識し続けた10年でもあったんです私は子どもが3人いるので、周りの人たちに助けてもらって、どうにか辞めずに継続してきました。今は上の子どもが12歳になり、子育てもだいぶ手が離れそうだなという段階です。だからこそ、もっと自分のやりたいことに対して、無駄な時間をかけてやりたいなというのも考えています。

ー 無駄な時間、すごくいいですね。

学生の時もWSDを立ち上げる時も、とにかく時間をかけて動いていた時期ってあるんですよね。この道筋で良いのかよくわからないけれど、とにかく実現にむけて前進するみたいな。実際、がむしゃらにやっていたことは、直接役に立ったことばかりではなく、無駄になったことも多かったのですが、無駄な時間から得た学びは大きかった気がします。その時の感覚を思い起こすと、時間をかけて、もう一度、自分で何かを立ち上げてみたいなとも思います。小さくてもいいのですが、自分でイチから作れるとしたら何だろう、ということは考えますね。

ー これまで辞めたいと思うことはなかったですか?

ないですね。やっぱり好きなんですよね。授業は土日だったり平日夜にあったりするので、子育てをしながら働きづらいところもあるのですが、学びの場づくりが好きで、そこで人が成長していく姿や変わっていく様子を見ているのが楽しいです。3人目の時には、お腹が大きくなって教室の通路が通れないとか、そんな中でも続けていました(笑)。辞めずに続けたいと、バランスをとって踏ん張ってきた10年でしたね。

あとはやはり修了生の方に「WSDと出会って本当に変わりました」と感謝されると、人に役立つ仕事が作れて本当にありがたいなと思います。幸せなことに、仕事なのか好きなことをやっているのかよくわからない中で生きてきている感覚は常にあります。

協働的な学びの場をつくり続けたい

ー 中尾根さんのキーワードとしては「教育」や「子育て」が挙げられるかなと思いますがご自身を振り返り、どんなことを軸に持っていると思われますか?

そうですね、もともと私はNPOで子ども向けのワークショップを行っていましたが、変わらず実感しているのは、子どもでも大人でも学生でも、やはり協働的な学びの場づくりにはすごく可能性を感じています。人は何かを教えてもらわなくては学べないのではなくて、他者との関わり合いの中で自ら学ぶパワーがあるというのが、やはり私の軸です。そのパワーをより引き出すための場づくりを、子どもにも大人にも学生にも伝えていきたいというのがありますね。

ー 20代はすごく一生懸命働き、30代は子育てと仕事を両立し、40代に入って何か変化というか、感じることはありますか?

これまでも好きなことをやってきているんですけど、やはり効率の良さを重視して働いてきたので、40代は非効率的な時間を楽しみながら、好きなことをしたいですね。そこから新たな自分のキャリアとか次のステップみたいなことも見えてくるかもしれません。

あとは若いスタッフが入ってくれるようになってきているので、何か自分が伝えられることはないかと考えるようになりました。その子たちのキャリアも一緒に考えながら成長できたらいいなと思っています。小さな組織なのでちゃんとした社員研修みたいなことはやっていないのですが、何か自分の働き方や生き方が見本になることもあると思うので、常にいい影響を与えられるようになっていたいと思っています。

ー 先ほどおっしゃっていた自分で新しく立ち上げるというところについて、どんな内容になりそうかなど、何か構想はありますか?

基本的には協働的な学びの場づくりが私の特技でもあり、好きなことでもあり、興味関心のあることなので、その場を作り続けたいと思うのですが、毎回どうしてもぶつかる壁は、WSDに勝るものがない(笑)。「これだったらWSDでよくない?」となってしまって、作ってはたち消えることが今までもあったんです。やはりWSDは、コンセプトやカリキュラムのバランスもすごく良くできていて、そこに並ぶものをもう一つ作るなら何だろうって、ちょっとはかりかねているんです。だからこそ、WSDを軸に、修了生の学びをサポートすることから、広がる可能性を模索していきたいと思っています。

ー 貴重なお話をありがとうございました。

インタビュー・編集:扇本 英樹 (株)Sparks
執筆:梅田 梓

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