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インタビュー

起業家の生きざまに魅せられ、業界最大手の百貨店から新規事業開発支援の道へ

今回ご登場いただくのは、株式会社アルファドライブ(AlphaDrive)で新規事業開発支援を行う塚谷さん。「社内起業家を応援したい」と、約20年勤めた百貨店から新規事業創出支援のプロフェッショナルカンパニーへ転職。その転機や、新しい環境での仕事への向き合い方についてお聞きしました。

Profile
塚谷一貴さん:株式会社アルファドライブ(AlphaDrive)
イノベーション事業部 インサイドインキュベーションリード
※  2022年10月現在

百貨店企業のマネージャー職から、大手新規事業創出支援の道へと転身

新卒で株式会社伊勢丹(現 株式会社三越伊勢丹)に入社した塚谷さんは、 34歳で会社を2年間休職し、一橋大学大学院商学研究科で学んだ経歴の持ち主です。起業家との出会いに刺激を受け、約1年前に新規事業創出支援を行うAlphaDriveへ転職しました。企業文化が異なる環境ながらも、自分の強みを見出し「この仕事はすごく面白い」と挑戦を続けています。

— 現在、塚谷さんがどんなお仕事をしているのか教えてください

AlphaDriveという法人で、大手企業を対象に新規事業創出のお手伝いをする仕事をしています。大手企業ではここ数年、社内起業プログラムが導入されていますが、従業員が社内起業家としてキャリアを歩み、事業が創出されるための制度や研修、伴走を支援することがメインの仕事です。

— これまでのキャリアをお聞きしたいのですが、もともとは新卒で伊勢丹に入られました。就職活動はどのようにされていたのですか。

すごく単純ですが、私はデスクワークが苦手で、喋ることやニコニコして人を気持ちよくさせるのが得意だと思っていて、接客業を考えていました。ただ、私は教職課程を取っていて実習期間と就職活動での面接が重なってしまい、最終面接に行けないことが何度かあって。そんなとき事情を汲んで最終面接の日程を変えてくれたのが伊勢丹でした。いい会社だなと思い入社しました。

— 伊勢丹では店舗に立たれていたのですか?

最初はみんな販売員としてキャリアをスタートするので、私も1年目は子ども靴のお買場に立ち、お受験用の靴や高級スポーツシューズなどを販売していました。2年目に配属されたおもちゃのお買場では、着ぐるみを着ることもありましたよ。4年目はアシスタントバイヤーとして国内の物産展を担当しました。仕入れの仕事はやりがいはありましたが、当時はとても忙しく仕事が楽しいとか楽しくないとか、そういう感覚に浸る余裕はありませんでしたね。

※三越伊勢丹では、売場をお買場と言うそうです

5年目のときに結婚をしましたが、それを機にそれまでいた新宿店から、当時住んでいた町田市に近い相模原店に異動しました。相模原店で3年ほど経ってマネージャー職になり、店舗の入れ替えやリニューアル、メンバーのマネジメントといった仕事を経験しました。

— 今の仕事につながるような、新規事業の支援に関心が向くきっかけは何だったのでしょうか。

今から10年くらい前、34歳で社内休職制度を使って大学院に通っていたときです。当時、教室に起業家を呼び、その方々に対して私たちが事業提案をするアントレプレナーシップという授業がありました。日本を代表するような起業家がたった60人の学生のために来て、その方々に対して事業提案をさせてもらえるのです。この授業で起業家の方々に出会い、起業家という生き物はこんな考え方をするのだと、いわゆる優秀な大手企業のサラリーマンとは全く違ったものの見方や価値観に触れました。そのあたりから、変革やチャレンジをすることの意義や、起業家への憧れみたいなものを抱くようになりました。

学び続ければ、巻き返せる

— いつ頃から大学院に行こうと思っていたのですか。

30歳になる頃だと思います。伊勢丹ではマネージャー職についたばかりの頃にグロービス・マネジメント・スクールというグロービスさんによる社内ビジネススクールのようなプログラムに参加することになって、私も2年間かけて2ヶ月に1回ほどの頻度で通っていました。そのときにもう少し勉強してみたいと思ったのと、社会人になってから大学院に行っていた先輩がいて、その方の話も聞きながら徐々にどこかのタイミングで行ってみたいという気持ちが高まっていきました。

自分の中の分岐点みたいなものがあって、私の先輩で仕事が忙しい中でもしっかりと勉強を続けていた方がいました。私もその先輩も、中学、高校、大学と勉強してこなかったタイプです。大学の同期には頭のいい人がたくさんいて、さらに私は文学部だったのですが、商学部の人に比べればマーケティングのことも全然わかっていない。入社以来、その負い目みたいなものを感じていたんです。けれど、その先輩は「大人になってからの時間の方が長いのだから、これまで勉強してこなくても社会人になってからめちゃくちゃ勉強すればそれでよくないか?」。「いいこと言うなあ」と思いました。そのあたりから、学び続けることが大切だと思うようになりました。勉強を続けることで、巻き返せるんですね。

— 巻き返せるという気づきは、すごく大きいですね。大学院に行かれている間は完全に休職されていたのですか。

そうです。2年まで休める休職制度を利用しました。休職しなくても、働きながら夜間や週末を使って通う人も多いと思いますが、当時はハードに働いていたので「行くなら休職するしかない」と、他の選択肢は考えられませんでした。

それで学生になれば少し生活に余裕が出るかと思っていたのですが、実際には全く余裕がありませんでしたね。学校にもよると思いますが、MBA(経営学修士)は基本的に自分たちで授業を作ることも多く、事前準備がとても大変です。グループで動くのですが、海外からの留学生もいるし、みんなの予定を合わせながら、午前中で授業が終わったら午後はずっとディスカッション。出された課題に追いつくのも大変でした。

— 大学院は、会社に戻ってからのキャリアを描いてから行ったのでしょうか。

そうですね。入学前に用意する研究計画書では、大学院でどのような研究をして、その研究を社会人としてどう活かしていくかということも書きます。私のいた百貨店の現場では非正規雇用の方々が多かったので、私は非正規雇用の方がモチベーション高く働くにはどうしたらいいかという研究をしたいと書きました。それがわかれば、非正規雇用のウエイトが高い会社にとっても有益だと考えたのです。修士論文では、成功しているスーパーを訪れては、売り場で働くおばちゃんを捕まえてインタビューをして、給料が安くてもなぜイキイキ働いているのか、必要な要素は何かということを探りました。

学びを“絞る”。得意を活かし、他の土俵では戦わない。

— 大学院から三越伊勢丹に戻って6年ほど働き、約1年前に今の職場のAlphaDriveに転職をされました。三越伊勢丹をそのままずっと続ける方向もあったと思いますが、現在の仕事につながるきっかけは何だったのでしょうか。

会社に戻ってからは人事企画という、人事の新しい制度の導入や既存の制度の変更、廃止などを行う硬めの仕事をしていました。その後、人材開発の業務をした後、わがままを受け入れてもらい異動して、社内新規事業プログラムの事務局長や、グループ会社でベンチャー投資にも携わっていました。そこで出会う人や仕事が、やはりとてもチャレンジングで面白いなというのがあって。しばらくこの業界にどっぷり浸かっていたいと思ったのが一つです。また、コロナの影響で全体の売上が下がり、社内では新規事業を抑制する動きになってきたこともあります。このままいくといつか自分の仕事がしばらくなくなると思い、転職に向けて動きました。

AlphaDriveは社内新規事業界隈では有名で、さらにたまたま知っている方がいたので、受けてみたいという話をすると、「ぜひぜひ」と話が進んで。転職をしようと動き始めてから4週間後には決まっていました。

— 三越伊勢丹という伝統的な企業と新規事業の支援企業では、社風も大きく異なるのではないかと思います。不安はなかったのでしょうか。

不安はそれほどなかったのですが、入社後に「違いをちゃんと想定できてなかったな」とは思いました。私たちの仕事は「無形商材」なんですよね。基本的に自分の頭の中にあるものを使って、クライアントが考えていることを整理し、良い方向に導いていくという仕事です。いただく金額は、時間単価でみるとそれなりの金額です。それだけの価値を提供できているかというところはすごく考えますし、常に緊張感やプレッシャーがありました。

例えば、海外MBAから帰ってこられた方、外資系コンサルティング会社で働いていたような方の支援に入ることもありますが、やはり不安になるわけです。相手はめちゃくちゃキラキラな人ですよね(笑)。ただ、そんなときも自分の土俵を持っていれば、自信を持てるんです。支援をするなかで「確かにそうですね、ここは見落としていました」ということを言ってもらえる。総合得点だと相手に及ばないかもしれませんが、局所的な専門性を持っていれば、お金をいただける仕事ができるのです。

先ほど、勉強を続けることが大切だと言いましたが、そういう意味では学ぶだけではなくて、「絞る」ことが重要だと最近は感じています。ぎゅっと絞ったところを毎日勉強して、半年、1年とやり続けていくと、答えられないことはなくなってくるんです。

— 塚谷さんは、その絞る部分をどうやって見出せたのでしょうか。

いろいろな人に、「私が活躍するのはどの辺りだと思いますか」「私が自然にできているところはどこですか」といったことを聞きましたね。これまでどんなときに褒められたかを振り返ったり、自分のバックグラウンドとクライアントの求めているものを整理し、周りの人と比較をしたりしながら「この人はここが得意で、自分はこの部分が得意なのかもしれない」と、あたりをつけていきました。

社内起業にはいくつかのフェーズがあります。例えば私の仲の良い方で、大きな事業会社で3回社内起業をしてすごく成功している方がいます。社内起業の後半のところは、私よりも成功を経験している人たちがやった方がよかったりします。

私はどちらかというと、そのフェーズよりも社内起業の前半の方の、社内政治も含めてどうすれば回っていくのかという“ごちゃごちゃ”したところの仕組みづくりが得意なのだろうと思っています。支援会社によって得意なところは異なりますし、同じ会社でも他の立ち位置が得意な人はいます。そこを明確にし、他の土俵では戦わないという感じですね。

前向きな社内起業家がさらに変わっていく瞬間に介在する喜び

— もともと教員免許も取得しておられて、会社では人事にも関わっていました。人が成長したり、変化したり、チャレンジしていくという部分に興味があったのでしょうか。

そうだと思います。今の仕事では、一対一で話をしながら人が変わる瞬間が割とあるんです。そこに介在できることにすごく価値を感じていますし、「ああ、今日はいい時間だったな」と思いますね。日々難易度は上がって、「どうしよう」と頭から血が出そうになることも時々ありますが(笑)。

— 40代はあと7年あるわけですが、40代、50代とこれからのキャリアをどのように描いていますか。

個人の性格特性を知るための「EQPI」という理論があるのですが、EQPI検査でクライアントの価値観や性格を分析して、事業開発における行動のアドバイスをしています。すでにエグゼクティブコーチングという領域がありますが、EQPIを起業家や事業家の方に寄せて活用し、支援をしていきたいと個人では思っています。まだ自分の中で発展途上ですが、どういった価値を出すとニーズが生まれるのか、誰が求めているのかといったことを考え、開発していきたいですね。

起業家の方々と接する中で私の一つの価値観となっているのですが、起業家の方々は逃げないし、愚痴も言わない。「何でそうなるんだよ」ではなく、「それなら、こう変えていけばいいんじゃないの?」と。そういう頭の動かし方をするんですね。そして人のミスを責めない。私だったら取り乱してしまうような状況でも、「こういうふうにやろう」と前向きです。そんな生きざまを見ていると、やはり起業家の方々と関わり続けたいと思いますし、自分もまだまだですが、そんな男になっていきたいと思いますね。

インタビュー・編集:扇本英樹 (株)Sparks
執筆:梅田梓

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