組織の名脇役にスポットライトを当てるメディア

インタビュー

学んで、自分を見つめ直したとき、キャリアの階段をひとつ登れた気がする。

これからの40代に贈るWebメディア「となりのイトウさん」。今号は「2度の産休・育休を経てパワーアップした」と話す家本さんをフューチャーしてお届けします。40代を目前に「モヤモヤから抜け出した」という彼女の現在地とは?

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家本夏子さん:株式会社エスケイワード TOKYO BRANCH Vice General Manager

家本さんのお仕事は?
様々な業界、職種、雇用形態を渡り歩きエスケイワードへ。プレイングしないマネージャーとしてメンバーが能力を発揮できる組織づくりを行う。

家本さんの‘ココがすごい!’
チームのマネージャー兼エスケイワードのダイバーシティ推進委員長を務め、福利厚生の見直しと新制度の立案などに貢献。家本さんがいると、その場が楽しく活気付く。話を聞き出し気づきを与えてくれる存在で、相談ごとがあるとつい頼ってしまう。1on1の必要性を感じ、コーチングを学び実践している。

私が‘モヤモヤ’から抜けるまで。

「今回2度目の育休を経て、気持ち的に‘抜けた感’があるんです」。と話し始めてくれた家本さんは現在39歳。2017年に第一子を出産し、産休・育休復帰後まもなく管理職に就き、約3年が経過した頃に2回目の産休へ。2022年の4月に復帰して現在3ヶ月ほどが経ったところです。

— さっそくですが、‘抜けた感がある’について、お聞かせいただけますか?

振り返るとここ数年、特に管理職に就いてからずっとモヤモヤしたものを抱えていました。当時は、社内に‘お手本’が見当たらなかったのです。管理職の方々は皆さんプレイングマネージャーとして業界における圧倒的な経験があり、かつスタープレイヤー。私はそうじゃないのに…と思っていました。どうやってチームのメンバーを引っ張っていけばいいのかわからない、という状態でした。

そこで‘引っ張る’やり方だけではなく、私なりにメンバーを支えて‘押し上げる’マネジメントで試行錯誤を続けてきました。具体的には、1on1(ワンオンワン)のミーティング方式を取り入れて、複数人でのミーティングではなく1対1でメンバーと話をして、業務上の困りごとだけでなく、働くうえでの不安を聞いて環境改善に役立てていきました。それがじわじわと効いてきた感覚が出てきた頃、社内でもこの方策が認められて、現在は全社で取り入れられています。

とはいえ漠然としたモヤモヤ感は続いたまま、2度目の産休・育休に入りました。2人目なので自分の気持ちにも少し余裕があり「何か育児以外のことをやりたいな」と思い選んだのが名古屋商科大学ビジネススクールが提供している女性キャリア支援のプログラムでした。半年ぐらいかけて、MBAの基礎講座を受け最終的には‘ケースライティング’を書いて修了、という内容です。

1人目のときは育児以外なにもせずに過ごしていたのですが、そのあと知り合ったママ友と話してみると、意外と育休中にいろんなことをやっている人がいて、いろんな世界があることを知ったんです。育休中に学んだり、ボランティア活動をしてみたり、企業インターンに参加したり。「よし、私もやってみよう」と挑戦した学びが、私にとってプラスに働きました。

育休中の学びが転機に。

— そのプログラムの概要を教えてください。

2週間に1回、2時間の講義は全てオンラインだったので、赤ちゃんを小脇に抱えながら自宅で受講しました。

MBAの入門編として組織行動、マーケティング、経営戦略、財務の講義をバランス良く受講できたことで視野が広がりました。プログラムの後半では、ゼミに分かれてケースライティングをするのですが、私は「組織行動」の先生のゼミに入り、自分のキャリアを見つめ直すこともできました。

それまでの私は、今後何かにつながるかも、とコーチングを学んで「いつかはプロコーチになってそれで稼げたらいいんじゃないか」とも思っていました。‘ココじゃないどこか’に活躍の場がある、と思っていたんです。でも自身のキャリアを振り返ったり教授と話していくなかで、私のやりたいこと、力を発揮できることは意外と今の道と重なっているんじゃないか、と見えてきました。

— 家本さんがやりたいことの「軸」は何だったのでしょう?

「人の居場所づくり」です。「居心地がよく、それぞれが能力を発揮して活躍できる場所」っていうのかな。その考えに気づいた当初は、「スナックをやろう」とか全然違うことを妄想していたんですけど(笑)。ゼミを通して「実は組織の管理職として実現できることがある」とつながったんですよね。メンバーを育成したり、彼らの力で組織としての目標を成し遂げるとか、そういうやり方ができるんじゃないか、と紐付いていったんです。

人材育成は人事部に行かないとできない、という思い込みがあったんですけど、そうではなく、管理職というポジションであれば自分の部署のなかでそういう働きができるんだな、と見えてきて、すごくスッキリしました。

もうひとつは「そもそも私は管理職に向いているのか自信がない」という問題。これもゼミの先生に‘向いている’という趣旨のことを言っていただき霧が晴れました。例えばコーチングをひとりでやっていくよりは、組織やコミュニティの中で周りの人と一緒に居心地の良い‘空気’を作ったり、皆さんをモチベートしていくなど、そこに「私の得意分野がある」と言ってもらい、その言葉がすごく励みになりました。

人生は続く。キャリアには緩急があっていい。

— ご自身の使命が明確になったこと、自信を持てたことで、肩の力が抜けた。仕事に育児と多忙な中で、時間のやりくりはどんな感じですか?

業務はとにかく6時間しかしない、と割り切っています。1回目の復帰後は、「育休明けで時短勤務の私が本当に必要とされるんだろうか」と心の焦りがあったので、退勤後もなんとか仕事をしようとスマフォでビジネスチャットにかじりついていました。今は物理的に子どもが2人になってそれどころじゃない、ということもありますけど、結構気持ちの面では大きく変わったと思います。

— 現在、新規事業にも携われているとのことですが。

いま私が任されているのが新規事業の立ち上げとその環境整備です。これまで弊社はウェブサイトの受託制作が主な事業内容だったのですが、専任の担当者を企業につけてウェブに関する運用を全般的に支援する方法を検討していて、その人材の採用と育成、環境整備が私の任務です。

お客様のところで活躍するメンバーの育成が鍵となりますが、私はそのメンバーたちの居場所が、社内とお客様のもとと、2つになることがすごくいいなと思っていて。メンバーにはお客様のところで頼りにされるような人、居てもらいたい、と思ってもらえるような人になって欲しいなと思います。ウェブのスキルのみならず、働く上でのマインドも極力織り込んで伝えていって、人として魅力的になってもらいたいです。

人材育成のプラン作りなど、これまでに手がけたことのないことを担当しているので大変、という側面はありますが、「大変だから苦悩している」ことはないです。

— 肩の力が抜けている(笑)。

これまでのキャリアの中で、今が一番「仕事が楽しい」気がします。

— 「仕事が楽しい」境地にたどり着いた家本さんのこの先の展望は?

私は仕事を続けたいし、キャリアは必要なものなんだけど、そこに緩急があってもいいかな、と思うようになりました。子どもが小さいうちは制約があるから緩めたとしても、自分のやりたいことや能力がぶれなければ、どこかでまた機会がやってくる、と思えるように。

— ご自身の‘得意’を分析すると?

「支援」ですね。自身の幼少期から振り返ってみて、例えば学生時代は「サークルになじめなくて端っこの方にいる人をみんなの輪に入れる」とか、試合よりも応援に力が入ったことを思い出したり。あと吹奏楽部では、ひとりでやるより合奏するのが好きだから吹奏楽を選んだことを思い出したり。皆で場を盛り上げたり、その場の支えをするのが得意というか、言われなくてもやっちゃう。

— その特性に気づいていた? それとも、もがいてここにたどり着いた?

もがいて、だと思います。私は転職もしていて、業界も職種も変えてキャリアを歩んでるんですけど、その根底にあるものにようやく気付いた感じです。

— このメディアに何を期待されますか?

私は幸い38歳で今お話したようなことを考える機会があったので向き合うことができたんですけど、おそらく男性は産休などがないので走り続けたまま40代になっている方も多いと思うんです。「あれ?」と気づいたときに、そこからでも間に合うよ、大丈夫だよ、考えてみようね、ってことを伝えられるメディアになるといいなと思います。

今回思ったのが、人の成長は「ゆるやかな右肩上がり」ではなく、階段状かなって。私の場合は、ここ3、4年もがいて平行線上にありましたけど、ふとしたことで急に1段上がれた、というイメージです。誰かが1段上に上がる「きっかけ」のひとつにこのメディアがなれたらいいですよね。

インタビュー・執筆:村田真美 (株)mana
編集:扇本英樹 (株)Sparks

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