今回ご登場いただくのは、乳幼児向けの玩具メーカー、ピープル株式会社で働く真下美奈子さん。新卒で入社し、20代から30代にかけて4回の産休・育休を経験しました。復帰のたびに新たな仕事にチャレンジしてきた真下さんに、キャリアの中での転機や、40代の展望についてうかがいました。
真下美奈子さん:ピープル株式会社 新事業開発部、企画部(兼務) ※ 2023年2月現在
出産を転機に、常に新しいことへ
― ピープルは主に未就学児に向けた玩具や育児用品のメーカーですが、入社の動機として、もともと子どもに興味があったのでしょうか?
子どもに対しては、高校生の頃から興味を持っていました。高校は普通科でしたが、附属の幼稚園で週1回の実習があったんです。子どもって予想外のことをするじゃないですか。それが本当に面白くて、子どものことをもっと知りたい!と大学で子どもの発達科学を学び、就職活動でも子どもに関わることができる会社を選んでいました。
ー 早い段階から興味を持たれていたんですね。現在はどのようなお仕事をされていますか?
新事業開発部と企画部に兼務で所属していて、新事業開発部では二つのプロジェクトリーダーをしています。2020年に育休ママと一緒に商品開発体験をする「ikukyu innovation’s」というコミュニティを立ち上げ、そこから生まれたアイデアを2024年にローンチすることを目指しています。
企画部では育児用品課のリーダーをやらせていただいています。私が商品の戦略をたて、それぞれのメンバーにやることを分担しながら企画を進めています。
ー 新卒での入社からこれまでのキャリアでは、どんなことを経験されてきたのでしょうか。
今年42歳になる私は20年近くピープルにいます。その間に4回産休・育休を取得し、復帰のたびに所属が変わっています。ピープルが扱うおもちゃや育児用品にはいろいろなジャンルがあり、企画職として全ジャンルの担当になりました。その経験が今につながっていると思います。
特に第2子の育休復帰時は、私一人が所属する「タスクフォース」という部署が新しく作られました。新商品企画も新事業も「なんでもやります!」というスタンスだったのですが、さまざまな部署から新しい商品や事業に対して、相談が来て、この時はすごく楽しかったです。いろんな企画に顔を出して、新しいことを好きに提案し実践もできた時期でしたね。
ー 育休から復帰するたびに新しいチャレンジをされたんですね。ブレイクがあったからこそ、同じ会社で続けてこられたという部分もあるでしょうか。
それはありますね。私は飽きっぽいところがあるので、出産が良い意味で転機になってきたと思います。立て続けの育休復帰後の配属は会社としては課題に感じる面もあったかと思いますが、毎回異なる配属になったことが私にとってはむしろ新しい挑戦となったので、自分に合っていたなと感謝しています。
4人の子どもがみな3歳差で、仕事に慣れ、乗ってきたタイミングで引き継ぎをしてきました。3年程度の周期で新しい場に飛び込み、集中して取り組むことが自分にとっては心地よいスタイルになったかなとは思っています。
ただ、そのリズムに自分自身が慣れてしまったというのもあって。末っ子の育休から復帰して3年くらい経ったころ、新しいことへの挑戦に飢えてくるようなモヤモヤ期があったんです。ちょうどそのタイミングで会社の代表が変わり、組織としてもどんどん新しいことをやっていこうという変革が加わりました。私もそこで、新しいチャレンジに立候補して。それが最初にお話しした「ikukyu innovation’s」の立ち上げだったんです。
「カオス」な状態に一番わくわくする
ー 産休・育休に入るたびに、慣れた仕事を手放すタイミングがあって、さみしさはありませんでしたか?
そうですね、そこはそれほど感じないというか、実はゼロイチで立ち上げる時が一番楽しいということもあって。ある程度軌道に乗ってくると、課題ややることが見えてくるので高揚感は自分の中でなくなっているんです(笑)。立ち上げのカオスみたいな時期が、一番わくわくするんですよね。
ー カオスが苦手な人のほうが多いように思いますが、真下さんの特性ですね!
わからないこと、変なことが好きなんですよね。自分とは全然違う人や答えのないことに対してわくわくするというか。
子どもの頃から本が好きで、図書館にある本を全部読みたいと思っていました。いろんな本との出会いを楽しんで、なおかつ自分とかけ離れた発想の本に惹かれました。
旅行も日本とは全然違う環境の場所に行くのがすごく好きだったんです。大学時代はバックパッカーをしていて、例えばインドへのひとり旅で宿も決めず、その日その日の出会いを楽しんでいました。
働くことに関しては、学生時代に飲食店のアルバイトリーダーをしていましたが、カオスの中で「みんなで作っていこうぜ」という雰囲気がすごく好きでしたね。
逆にルーティーンがあるような、決まったなかで進めることが不得意なんです。
ー 真下さんの、カオスを語る時の表情がすごくキラキラしていらっしゃいますね(笑)。人と一緒になって何かをすることもモチベーションになっていますか?
そうですね。実は昔は人に合わせるのが苦手で、仕事も一人のほうが気楽で好きでした。でも、一人だと大きいことができないことに気づいて。自分にはない強みを持っている人と力を合わせるとすごく面白いことができるし、自分の見えなかった世界が見え、出会いこそがよりカオスをつくるとわかってきたんですよね。
失敗を恐れず、面白い方へと動くことで広がるご縁
ー 人と力を合わせる面白さに気づいたきっかけはありますか?
育児用品を担当した時に、Instagram(以下、インスタ)で出会った方々と商品を盛り上げた経験が大きいですね。ピープルはもともと玩具メーカーなので、育児用品に参入するのはすごく大変だったんです。おもちゃは既存の流通ルートでお店に取り扱ってもらえますが、育児用品は流通ルートを持っていなかったので、お店に置きたくても扱ってくれるところがどこにもない状態でした。
それなら消費者から動かせばいいと思い、自分でインスタを立ち上げたんです。今ピープルで育児用品の柱になっている「Hugシリーズ」を発売した2016年当時はおもちゃメーカーのアカウントがほぼなく、手探りで運用を始めました。商品がインスタ映えしたこともあり、話題になって客注(取り寄せ)だけですぐ売り切れたんです。それから、販売店も増えていきました。
インスタから広がる出会いもたくさんありました。ママ達ともすごく密に交流ができたり、新しい新商品のアイデアが出たり、インスタで出会った方々と一緒に商品を作っていく感覚があり、すごく楽しかったんですよね。
世の中にはいろいろな強みを持っている人がたくさんいて、ピープルの力だけではお店にも置けなかったけれど、社外の人の力を借りたらこんなことができるんだ!と短期間で実感しました。それで、もっといろいろな人に出会いたいという思いが、「ikukyu innovation’s」の立ち上げにつながりました。
ー 経験が今に生きているのですね。Instagramもそうですが、新しいチャレンジをするときに必要な情報をどのように見つけているのでしょうか。
何か目的があって探すというよりは、直感的に面白そうな方へ動いてみて、結果的に広がることが多いですね。インスタに関しても、雑誌を読んでいたら「インフルエンサー」の紹介が小さく載っていたんです。「こんな人たちがいるんだ、面白そう」と、直感で動いたんです。
「ikukyu innovation’s」を立ち上げる時も、その当時読んでいた本でコミュニティづくりのことが書かれていて、それが面白くて著者さんに直接アポを取ってお話を聞きました。そしてそのまま著者さんのコミュニティに入って、構想を練っていきました。
その時々でピンと来るものに向かって動いたことが、今につながっているというのはよくある気がしますね。あまり躊躇せずに失敗してもいいから行動してみることが多いです。
ー 失敗を恐れずにまず行動することが大事とは分かっていても、私はやっぱり失敗が怖いと思ってしまうことがあります。真下さんは失敗が怖くないのですか?
やらない方が後悔するという思いが強いですね。やってみてダメだったら縁がなかったと思えばいいので、失敗と捉えることは少ない気がします。こっちはダメだったけど、別のご縁が広がったから良かった、というくらいのスタンスで捉えています。
ー なるほど。私もそれぐらいのメンタリティでいようと思います(笑)。
メンタルは強いとよく言われますね(笑)。
自分の心に常に素直になって、心が動く方へ
ー 今、40代になったからこそ実感していることはありますか?
余白ができたというか、自分の時間をどう使うのかを考えるようになったかなと思います。これはコロナで会社がほぼリモートになったことや、上の子が高校生になり子育ての手が離れてきたタイミングが重なったこともすごく影響しているのですが、20代〜30代は、その時やることに夢中で、子育てと仕事をするだけで精一杯でした。それが今は子どもたちも大きくなって、仕事も会社から与えられることをやるというよりも、自分で目的を決めて進められるようになって、より楽しさもありますが自分で責任ももつ必要はあり、自分のやりたいことの優先順位を大切に考えるようになりました。未来の自分を想像することも多くなった気がしますね。
ただ、具体的に未来のために時間を使うようになっているかというと、そうでもなくて。未来は想像してもわからないところがあるので、今やりたいことの方に集中していたら、自然と流れが変わってくるだろうなと思っています。
ー 未来を描いてから逆算するバックキャスティングという考え方もありますが、それよりも今ということなんですね。そんな真下さんに今後の展望をお聞きしたら、どんなお答えになるでしょうか。
やはり、自分にとって心地いいのは変化があることだと思っているんです。だから安定に甘んじたくはなくて、これまで通り、2~3年のスパンで変化したいなと思っています。ただ、すごく忙しくしていたり今に集中しすぎたりしていると、自分が変わりたがっていることになかなか気づけないので、気づける余白があることは大事かなと思っています。自分の心に常に素直になって、心が動く方に素直に動ける態勢でいたいなと。
ー いつでも動けるように、意識していることはありますか。
手放すこともあり!とするということでしょうか。手放すというのは、途中で放り出すような感覚になって申し訳ないような気持ちにもなることもあると思います。でも、手放してもなんとかなる。「いやいや、自分がやるより、他の人に任せたほうが上手くいく」ということも実は多い。手放す選択肢を常に持つことかなと思います。あとは、心に素直に動くためのエネルギーも持ち続けていたいですね。
インタビュー・編集:家本夏子 (株)エスケイワード 編集:菅野瑛子 (株)エスケイワード 執筆:梅田梓