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インタビュー

神戸市役所職員として、行政とデザインの架け橋に。学びを通して人生を前へと進めていく

今回ご登場いただくのは、神戸市役所職員の清水充則さん。キャリアの中間地点で自身の考えを深化させる学びの旅をスタートし、「得た知見を実践でどう生かしたらいいのかもがき中」という現在の心境を伺いました。

Profile/
清水 充則さん:神戸市役所 環境局
※2022年11月現在

「転機」をつくる。東京と学びに飛び込んだ3年間

—最初に、現在のお仕事について教えてください。

神戸市役所の環境局で、食品ロス(食べられるのに捨てられている食品)削減の啓発や、プラスチックのリサイクル事業に携わっています。「燃やしてリサイクル」ではなく、例えば「ペットボトルをペットボトルにかえる」など、モノをモノにかえていく取り組みです。

—清水さんは、ずっと神戸市でお仕事をされているのでしょうか?

神戸市役所での勤務は22年目で、これまで様々な業務を経験してきました。特別な点でいうと、神戸市役所には希望する部署で経験を積むことができる「FA(フリーエージェント)制度」があり、その制度に応募し、神戸市役所の東京事務所での勤務経験があります。2018年から3年間を東京で過ごし、国土交通省や経済産業省などの各省庁とやりとりするなど、国とのパイプ役を担いました。

その間に本業と並行して、プライベートでは下記3つの場で学びました。ここが私のキャリア折り返し地点における学びの「起点」となりました。

青山学院大学社会情報学部「ワークショップデザイナー育成プログラム」
(ワークショップデザイナーを育成する学びの場)
受講期間:2019年8月〜12月

多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム(TCL)
(デザイン経営をビジネスに実装する講座)
受講期間:2020年9月〜11月

産業技術総合研究所デザインスクール
(共創型次世代リーダーを育成する場)
受講期間:2020年7月〜2021年2月

 —なるほど。年齢的にも40歳という節目の年に、新たな場所でのチャレンジだったわけですね。

「広義のデザイン」を体系的に学ぶことで、デザイン都市・神戸での市役所業務に役立てることができるじゃないか、という思いで飛び込みました。忙しいけれども本気で学ぶ機会を得られたことで、本来業務を客観的に俯瞰することができたり、新たな人的交流が生まれたりと、自身の視野が広がる貴重な経験となりました。当時を振り返ると東京での3年間は、ゲームのスーパーマリオブラザースで例えると、ずっと“無敵モード”の音楽が鳴っている状態。忙しい時があったとしてもそれ以上に学びや人との出会いが貴重で楽しくて、仕事にも学びにも意欲的に過ごしていましたね。

模索しながら、思考は止めずに前へ進んでいく

—全力投球に見える清水さんが、「もがいている」というのはどういったことなんでしょうか?

学びを継続していますが、私としてはまだまだ「過程」だと思っています。実践に移せていないからです。最終形がどういうものかはわからないですけど、やはりまだ模索中、という感じです。

 ー次のステップのイメージはありますか?

市役所内では、各専門分野によってさまざまなアプローチがあります。例えばクリエイティブの側面から見た時に、その考え方が良いかどうかは別として、「デザイン思考」や「アート思考」という言葉や考え方を理解していたり、デザインに関する共通言語を持った職員を市役所内で増やしていければ、より良い議論できる土台を醸成できると思っています。神戸市は2008年から「デザイン都市」を掲げていますし、職員の採用には「クリエイティブ枠」があって、美大出身者も採用されています。40代の私たち中堅職員がデザインの観点を理解して、そのつなぎになれるのではないかと考えています。

神戸市役所には、さまざまな企業と役所内の業務をつなぐ役割を担う部署があります。その部署で働くことも魅力に感じています。また研修の運営を担う部署もありますので、例えば「職員の研修項目としてデザインを学べるスクールでの研修」を提案して、「デザイン」を多くの職員の共通言語にできるようにするというアイデアもいいですよね。そんな草の根的な活動をコツコツと続けていくことで、年数はかかるかもしれないですけど、土壌を耕して広げていきたいです。

—それらが「実践」への第一歩になるのでは?

そうですね。たとえば、現在の業務でも例えば「ステークホルダーマップ」(事業やプロジェクトを取り巻く人や組織とその関係性を図式化したもの)を使って一緒に思考を整理してみるなど、日常業務に“小技”を取り入れたりしています。いきなり「デザイン思考」とか「アート思考」などカタカナ用語や英語を持ち出して“大技”をかけるのではなく、これまでの学びで使えそうな要素を、例えば「ワークショップ」を「打ち合わせ」や「話し合い」など馴染みのある用語に置き換えて使っていく。そして後から「実はそれってワークショップなんだよ。デザインの観点なんだよ」とさりげなく伝えてみる。

—なるほど。小技を日常に散りばめながら、大技を目指していくイメージですね。

産業技術総合研究所デザインスクールの先生がおっしゃっていた言葉です。大技・小技。学校で学ぶと、すぐに実践で使いたくなるじゃないですか。でも突然大技を繰り出しても周りの理解を得られないので、実はその要素を活用していたことに後で気づいてもらえるような取り組みができたらいいなと思っています。

—大技・小技を織り交ぜながら、短期的・長期的な視点でやっていく感じですね。

神戸市役所での人材確保にはクリエイティブ採用枠があり、民間人から短期的な登用もあるので、特に民間人の登用については、その時々の適材適所の短期的な視点では合致している取り組みだと思います。一方、長期的な視点では、私のようなはえぬきの中堅職員がもがきながら、デザインを学んでいけば、民間から登用された職員とはえぬきの職員がつながって、よりものごとを前に進めていけるんじゃないかと思っています。さまざまな部署を経験した40代半ばの職員が若手社員や専門職の方たちをつなぐ架け橋になれればいいですよね。

自分を見つめ続け、「今できること」に向かう

神戸市役所では海外での勤務もあります。私は神戸市役所に入る前に2年間のイギリス滞在経験があるので、それを生かして海外での勤務にチャレンジしてみたいと思っています。ところが、先ほど“無敵”状態だったとお話した東京勤務時代の40代前半の自分と比べて、今の46歳の自分は「海外勤務ができない理由」を探していることに気がつきました。挑戦したい気持ちはある一方で、あえてダメな理由を見つけ出して、それを理由に諦める方向に自分を持って行こうとしている時があるので、そのマインドがいまの課題です。

—そうは言っても、今も社会人向けの学びの場で攻め姿勢で学びを続けていらっしゃいます。清水さんの今後が楽しみです。積み重ねてきたご経験をもとに、どんなブレンドで次の一手を繰り出すのか。そこは清水さんご自身も「自分に期待」されているのではないかと思いました。

そうですね。例えば「学びたい」と思っている職員がいたら背中を押してあげたいですし、そのための環境整備もできたらな、と思っています。そんな役割を市役所の中で担えたら理想ですよね。いずれにしても、私の仕事キャリアの後半戦に向けて、今回のインタビューをきっかけに、改めてこれまでのことを振り返って言語化してみようと思っています。

行政職員ならではの可能性を追究する

—今後ご自身に期待される部分や、目指す道についてお聞かせいただけますか。

「神戸市役所での仕事が好き」という大前提があります。年齢を重ねて知識や経験は増えましたし、肩の力を抜いて仕事に取り組めるようになってきた実感もあります。そこへ新たな学びを通して得た視点を生かしながら、いい仕事をしていきたいです。人とのつながりも広げていきたいですしね。そのくらいの緩さの方がいい仕事ができるんじゃないかな、と。

—神戸市の職員である、というのがベースにあってこそですね。

そうです。「いつか独立する」という前提ではないんです。アイドルグループを例に挙げると、「グループでは輝いてるけど、ソロで活動したらあかん!」っていうパターンがあるじゃないですか。私はそのパターンになる気がして(笑)。そもそもグループの中でも輝いていないですけど(笑)。

「神戸市職員でありながらデザインを学ぶ」=「片足は行政、片足はデザイン」というスタンスで、行政の立場、クリエイティブの立場、双方の想いがわかる役割を担いたいので、神戸市職員として仕事を続けたいと思っています。

—知識も影響力も行使できる50代、というイメージを抱いているのですが、清水さんの50代のイメージをお聞かせいただけますか。

先ほどお話した海外勤務を含めて、いま考えていることは40代のうちにすべてやりきりたい。これまでの学びの蓄積や経験をベースにアウトプットを加速して、自身を生かせる場でどんどん発揮していきたいです。50代は…役職が変われば求められる職責も変わっていくでしょうから、40代で得た学びの蓄積や経験を活かして、しっかりと担っていきたいと考えています。

学びはジョギング!心地よく続けていく

—お話を伺ってきて、清水さんが学び続ける理由が少し理解できた気がします。

学びは「ジョギングみたいなもの」だと思っています。例えば体重を減らしたい、健康を維持したい、と運動を始めた場合。1ヶ月経って体重が減り始めると体調が良くなるかもしれないけど、やめるとまた太ったり体がだぶついたりしますよね。それと同じで、学びも「継続性」がすごく大事だと思うんです。

東京勤務から神戸に戻り1年半ほど経ちますが、“学びの筋肉”を維持するために、京都大学と京都市立芸術大学、京都工芸繊維大学の3つの大学が連携している「Kyoto Creative Assemblage」という社会人向けのプログラムを受講中です。筋肉を大きくしたいというより、ごはんを美味しく食べられるとか、運動のあとはよく眠れるとか、そんな感じです。知的筋肉を維持するための学び、と思っています。興味があることなら続けられますから。

インタビュー・執筆:村田真美 (株)mana
編集:扇本英樹 (株)Sparks

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