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インタビュー

UXデザインのプロフェッショナルであり続けるために、常に現場のキャリアを歩む

今回登場いただくのは、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(NTTデータ)でサービスデザイナーとして活躍されている野口さん。専門性を生かす環境を求めて彼がたどりついた現在のキャリアと、「仕事が楽しい」と語る40代中盤の現在についてお聞きしました。

profile/
野口 友幸さん : 株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(NTTデータ)
法人コンサルティング&マーケティング事業部 エクスペリエンス統括部 コンサルティング担当(担当領域/サービスデザイン) 
※2022年9月現在

転職を経て、「モバイルやUI、UXデザインに強い野口」に

「実は今日、誕生日なんです。46歳になりました」。と人生の節目にこれまでの歩みを聞かせてくださった野口さんは、1年前にNTTデータへ転職。前職は大手総研系のSIer企業で、UXデザインチームの立ち上げから運営まで担当されたUXデザインのスペシャリストです。

— 現在のお仕事についてお聞かせください。

NTTデータで法人コンサルティング&マーケティング事業部に所属しています。「サービスデザイナー」という肩書きで、法人向けに「ユーザーの体験に軸を置いたサービスの企画や事業開発の支援」をしています。私はどちらかというとお客さんと共創したい、汗を一緒にかいて同じ立場でモノを作りたいと考えていますのでコンサルティング部隊ではありますが「先生」のような立ち位置ではなく、サービスデザイナーとしてお客さんと協働する立ち位置です。

— 前職は大手総研系SIer企業で部長目前、というお立場で敢えて転職されたとのことですが、これまでのキャリアについてお聞かせいただけますか。

文系の大学を出て、新卒で事務機器大手のグループ企業に就職しました。Windows95がでて、大学のゼミ研究室でも「一人一台、自分のパソコンが使える」という世代です。IT業界に興味を持ち、入社した企業ではパソコンからソフトウェアまで扱うソリューション営業に従事しました。文書管理のソフトや電話帳、今でいう社内ポータルのようなものをお客さんの立場で考えて提案し導入してもらう仕事。でも当時は「大変な思いをして導入してもソフトが思ったように動かない」。そんな状況でした。

若かった当時の私は「作り手になりたい」と思ってエンジニアに転向したんです。転職した大手家電メーカー系のソフトウェア会社では、ガラケーと言われたカメラ付き携帯の開発部隊へ配属され、UI、いわゆる画面開発を担当しました。懐かしの「iモード」のiアプリを端末側で動かす仕組みを考えて実装していました。携帯電話開発以外でも、ガソリンスタンドのセルフ給油の普及でユーザーが自らタッチする画面を考える必要があったPOSシステムのプロジェクトを担当したり。コンビニやアパレルのレジなど店員さんに使われるPOSシステムのUI開発にも携わってきました。

この頃から私のキャリアにUXデザインの要素が登場します。例えばガソリンスタンドのプロジェクトだと、当時のガソリンスタンドは店員さんが操作して給油していたので、それを「ユーザーに給油オペレーションをさせる」のは結構ハードルが高くて。そのため「ユーザーの行動を観察し、画面はこうあるべき、と画面遷移を考えて…」と、今でいうUXデザインでやるようなことを経験しました。振り返ってみるとここが私の起点ですね。

ところが、2013年に日本の主要携帯会社3社がiPhoneを扱うようになって、iPhoneが市場を席巻していきました。これにより、携帯電話関連の事業は大転換を余儀なくされました。いわゆるイノベーションの波により社内でも配置転換や担当するプロジェクトの内容が変わっていきました。私も当事者で、その頃は機嫌よくスマートフォンアプリを使ったBtoCのサービスを作っていたのですが、BtoBを強化する流れで、役割が変わってしまいました。

そのような経緯もあって私は大手総研系のSIerへ転職しました。そこはモバイル活用がこれから、という状況だったため、私のそれまでのキャリアを買っていただいて。「モバイルやUI、UXデザインに強い野口」ということでポジションをいただきました2014年から7年間在籍し、「開発・実装する部隊」でUIやUXデザインをリードするところから始まり、UXデザイン専任の組織を立ち上げました。UXデザインチームの課長としてメンバーといっしょになってプロジェクトで実践していました。副部長という立場になるとデザイン以外も担当する範囲が広がり、いわゆる管理職としてマネージメントが求められました。それで結論からいうと、私の「現場をやりたい」想いが強くなり、次の道を考えるようになりました。

「専門家としていろんな企業を支援したい、一緒にいろんなことをやりたい」

— それで今の職場、NTTデータに転職されたわけですね。

デザインって、自分でやってないと感覚が鈍るんですよ。前職後半は、DX推進のような役割の中で、管理職として当然の、戦略や予算、人、営業との案件管理などが求められます。頭では理解していましたが、そこで評価されることに自分はマッチできなかったなと思います。それと、デザインチームのメンバーから相談を受けても、現場から離れていることで適切な対応ができていないと自分自身が感じたことも大きかったです。

— NTTデータへは「現場をやりたい」という意向が叶っての転職ですか?

そうです。「サービスデザインがやりたい」という想いを大切にしました。もちろん、プロジェクトをリードする、さまざまな分野の方と協働する、後進を育成する等はやるべきことと思っています。ただ、管理者ではなく、自らが現場に携われる環境を求めての転職でした。

— UXデザイナーは希少性が高く、各企業からオファーも多かったのではないでしょうか?

そうですね、転職市場の環境としては「事業会社がインハウスのUXデザイナーを求めている」こともあり、求人は多かったと感じます。UXデザイナーのキャリアパスとしても「この会社に」「この製品のため」「このサービスのために」という思いで事業会社にジョインされる方を多くみてきました。私に対しては「UXデザインのチームを立ち上げて運営していた」という実績を評価していただき、デザイン組織の運営にご期待いただくことが多かったように思います。でも私は、「現場がやりたい」という気持ちを優先していたため、お話しさせていただいた企業の半分くらいは合わなかったかなと思います。

私は「専門家としていろんな企業を支援したい、一緒にいろんなことをやりたい」と思っていて、イノベーションの話でよく出てくる「ひとりの天才によるものではなく、皆と手を取り合って成し遂げたい」タイプ。結果的に、自分が活きる環境を求めるならば多様な人やスキルが集まった大企業が適していると考えました。

— 野口さんのキャリアは、専門性の積み上げの上に今がある、という感じですね。

自分を成長させてくれた、という観点では、若かりし頃に携わった携帯電話の開発が大きいです。当時の責任者やリードしてくれた方々を私は今でも尊敬しています。ある程度任せてくれて、自分が担当した機種が世に出て、街中で使われているのを実際に見ることができる良い機会でした。それを20代の時に経験できたのは大きかったと思います。その後、iPhoneやAndroidが出てきて、1〜2年であっという間に世の中が変わってしまった。取り巻く環境変化のうねりの中、少しずつ自分を活かせると思う方へ環境を求めて現在に至る、といったところでしょうか。

野口さんが考える、サービスデザインの本質とは

— ITエンジニアにはいろんな可能性がありますよね。UXデザインにご自身の専門性を見出した背景を教えてください。

ひとつめは、サービスデザイナーは「人」にサービスを提供する「人」の専門家であり、必要になるのがUXデザインだからです。シンギュラリティみたいな話ですが、AIが人間を超えるまでは、人が人に良いモノを作って提供する以上、UXデザイナーとかサービスデザイナーという職種は絶対に必要だと思うから。

ふたつめは、UXデザインで大切とされる「利用文脈」とか「時間軸」の観点です。例えばここにペットボトルの水がありますが、この美味しい水を作る場合を考えてみてください。同じ水でも、運動した直後の人に差し出す場合と、すでに水分をいっぱいとっていてお腹ちゃぽちゃぽの人に渡す場合では、価値が全然違うんですよね。つまり水を作ったとして、いつ誰にどんな状況で飲んでもらうかが重要。そういうことをプロセスによって設計したり評価できるようになっているので、UXデザインが大事だと思ってるんですよね。ビジュアルのかっこいいUIでタッチポイントをつくることも大切なのですが、それが「誰に」「いつ」「何の目的」で使ってほしいのかを考えないと価値が出せない。これが「サービスデザインの本質そのもの」だと考えています。

学びを重ね、40代中盤を迎えた今。50代やその先の展望とは?

— 野口さんの40代はいかがですか?楽しいですか?

仕事が楽しいですし、学びも楽しいです。デザイン系の学校にも行かせてもらうなど、会社の環境にも恵まれています。この9月からは多摩美のTCL(多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム)で、クリエイティブを磨きつつビジネスを牽引するリーダーを育成するプログラムに参加しています。

ほかにも以前通った青山学院大学のワークショップデザイナー育成プログラムの同期ネットワークも続いていますし、学び合う皆さんとの刺激的ないい関係性がある。20代のころからIT系の資格の勉強やソフトウェア関連のセミナーに参加していましたが、いま40代で学びの場に参加する時は、若いころとはまた違った感覚を持っています。

もちろん今でも「実務的なスキルを身につけたい」と思っていますが、そこに集う人との新たな関係性だったり、そこから仕事につなげる、という意識があります。要はインプットで終わらせずにちゃんとアウトプットにつなげる。これはある程度経験を積んできたからこそ見える風景だと思います。それができるから、40代で参加すると学びが深い。「リスキリング」にもなりますし、吸収できるものが若いときとちょっと違う感覚があって楽しいです。

— 野口さんは時代に合わせて、うまく適応されてきたんだなと思いました。

ちょっと後ろ向きにいうと、私は環境を変えてきちゃった派なんですよね。一方で、私の周囲にはすごい人がいっぱいいて、20代の新卒時から同じ道でずっと頑張ってる人が結構いるんですよ。「続けている人の強さ」もあると思っています。でも私にはそれがちょっと難しくて、率直に「面白いと思える変化を求めた」。それがいいか悪いかはわからないところはあります。

— 50代やその先を想像されることはありますか?野口さんの今後のキャリアの展望について。

まず40代の今は、ご縁をいただいている今の環境できちんと立ち位置を確立したい、責任を果たしたいと思っています。NTTデータのサービスデザインをリードしたい。NTTデータは「システムを作って運用する。SIerとしてのNTTデータ」が保守本流ですが、サービスデザインについても発信したいし、リードしたいと思っています。携わる1つ1つのプロジェクトできちんと成果を出して、顧客企業とその先にいるお客様に満足いただく。我々はBtoBtoCでUXデザインをやっていますから、顧客企業とその先で利用しているお客様のことをイメージしながら、デザインしなきゃいけない。そこの満足度がちゃんと得られることをしたいです。

50代のキーワードは…「作りたい」ですかね。

いま私が所属している部署にはビジネスデザインの専門家もいるし、サービスデザイナーやUXデザイナーほかさまざまな職種の方がいるので、このメンバーと一緒に、アプリやサービス、事業などを「作って世に出したい」という思いがあります。それを50代でできるといいんじゃないかなって思います。集大成として自分たちでユーザーを想い、何か世の中に出せるようなものを作る。そんなことができたらいいな、と思っています。

プライベートでは子どもの成長が最優先です。いま小6なのですが、子どもの成長につれ時間ができたら、また別の楽しみを見つけていくんでしょうね。

インタビュー・執筆:村田真美 (株)mana
編集:扇本英樹 (株)Sparks

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