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インタビュー

会社の成長を支えるバックオフィス。期待に応えようと動き続けてきた道

今回ご登場いただくのは、主に中古車の販売や買取を手掛ける株式会社グッドスピードの松井靖幸さんです。管理部門責任者として同社のIPO準備を主導し、2019年にマザーズ上場を実現させたバックオフィスのオールラウンダー。「ご縁と直感で歩んできた」という松井さんのキャリアを辿り、冷静な口調の奥に潜む熱い想いや、40代以降の展望についてうかがいました。

Profile/
松井 靖幸さん
株式会社グッドスピード 取締役 管理本部長
※2023年3月現在

管理部門全体を管掌し、急成長する組織を下支え

-現在のお仕事について教えていただけますか?

はい。当社は中古車販売をメイン事業としている会社で、アフターフォローを含め、店舗展開型のビジネスを行っています。僕は取締役管理本部長として、バックオフィス全般の管掌、具体的には経理、資金繰り、資金調達、店舗開発、総務、システムデザイン、経営企画、M&A、IRなどを担当しています。
2021年春からは、バイク全般を扱う「チャンピオン76」という子会社で、非常勤の取締役も兼任しています。

-松井さんがグッドスピードにこられてそろそろ5年ということで、今はどういったフェーズでしょうか?

もう5年とは、早いですね。経営メンバーの体制が固まってきましたが、会社が成長してステージが変化するなかで、力を入れるべき業務も日に日に変わっています。僕は見ている範囲が割と広いのですが、まだまだ至らない点もあり「絶えず学んで、各分野で専門性を磨いていかねば」と感じています。

エンジニアから一転、バックオフィスの道へ

-現在の職務に就かれるまで、どのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか。

大学卒業後は、愛知県の自動車系メディアを運営する会社(東証プライム企業)にSE職で入社しました。そこでは17年ほどお世話になり、異動を重ねて経理財務部長も経験しました。2018年にグッドスピードに管理部門責任者として入社して、今に至ります。

-松井さんはバックオフィスのイメージが強かったのですが、スタートはエンジニアだったんですね! 現職も自動車関連の企業ですが、もともと車がお好きだったとか…?

いえ、「車好き」とかではまったくなくて(笑)。もともと大学は情報工学専攻で、プログラムを学んでいました。就職活動をしていた2000年当時はいわゆるITバブルで、SE職は超売り手市場。同級生の大半がメーカー系やソフトウェア系のSEとして就職するなか、「それはやめよう」と思ったんです。

今振り返ると大した理由はなくて、直感によるものが大きかったと思います。ただ業界の未来を見据えたとき、学生なりに「デジタルコンテンツを集積するビジネスが世の中の役に立つんだろうな」いう感覚がありました。会社説明会で創業代表の話を聞いて、「この方のもとで働いてみたい」と興味を抱いて入社しました。

-そこではどんな仕事に従事されたのでしょうか?

初めての理系採用ということで、当初は技術職として日本の自動車メーカー向けのデータ分析をしていました。異動が多い職場で、いろんな経験を積ませてもらいましたね。
そんななか、たまたま社内で経営企画の人員が必要になり、僕に白羽の矢が立ったんです。それを機にバックオフィス畑に入り、経営企画をはじめ財務や経理など、管理部門の業務を10年ほど経験しました。

-「経理や財務→経営企画」といったステップアップが王道のなか、松井さんは逆パターンだったんですね。前職では経理部長も務められていましたよね。

はい。退職までの7年間、経理財務を務めさせてもらい、38歳で経理部長になりました。

-17年も勤めるなかで、転職のきっかけとなるターニングポイントはどこにあったのでしょうか?

2、3年おきの異動が当たり前の会社だったんですが、経理部長になってから「10年、15年先も仕事の内容があまり変わらなさそう」と感じ始めたんです。
ポジションも収入も安定していましたが、「先が見通せるキャリア」を歩むより、「先の見えないキャリア」を歩む方が楽しそうだと思って、39歳のとき転職を決めました。

-グッドスピードへの入社を決めたのはどういう経緯だったのでしょうか。

役職者の転職はコネを使うパターンが多いですが、僕は経理部長時代にあまり人脈づくりをしていなかったので、自力で転職活動をしました。そのなかでグッドスピードに決めたのは、僕の前任にあたる当時のCFOが熱心にオファーをくださり、「この方と一緒に仕事をしてみたい!」と思ったからです。
グッドスピードが勢いのある会社だと知っていましたし、知人も働いていて安心感がありましたね。

-グッドスピードに入社したときの印象について教えてください。

当時、グッドスピードはIPOを目指していて、組織が急成長している空気を感じられたのが嬉しかったです。
過去に企業の成長期と停滞期の両方を経験しました。会社が伸びている時期は、「会社の成長に自分がついていけるか」が従業員にとって最大の関心ごとですが、ピークアウトして停滞期に入ると、会社に対する不満や愚痴が次第に増えていきます。

グッドスピードのエネルギッシュで前向きな空気に身を置いたとき、ある種の懐かしさがあり、そのありがたみが身に沁みました。「これからもっと良い会社になるぞ!」と、従業員から信じてもらえるような会社にしていきたいです。

変化に富んだ激動のキャリアも「なんとかなる」でハードル突破

-ご自身のキャリアを振り返り、苦労や挫折などはありませんでしたか?

いやもう、苦労だらけです(笑)。僕の場合、未経験な仕事の連続でして。数え切れないほど失敗して叱られながらも、なんとかやってきました。

1社目のSE時代には、車の知識ゼロの状態から、車の専門的なデータ分析をすることになりました。そこから「IRとは?」の状態で経営企画に異動になり、さらに「簿記とは?」の状態で財務に異動。ある日突然、経理部長になったときは、仕訳の経験もなかったですし。当社に入社したときも、IPO全般が未知の領域でした。こんな感じで、本当に知らないことばっかりだったんです。

-すごい……。淡々と話してくださってますけど、かなり波乱万丈ですよね(笑)。未経験なことに対する恐れはなかったんですか?

もちろん、新しいことに対する不安は人並みにありましたし、今でもそうです。ただ、キャリア形成に対しては割と楽観的で、心の中では「なんとかなる」と思って生きてきた気がします。
1社目と2社目を選ぶときも、さほど悩むことなくご縁と直感でポンと決めましたし。若手時代に部署異動を繰り返すなかで、「変化への耐性」が身についたのも大きいかもしれません。

-どんな場所でも実績と信頼を着実に積み上げられて、周囲が松井さんに期待を寄せる理由がわかります。現在は取締役というお立場ですが、もともと昇進意欲はお持ちだったんですか?

役職へのこだわりは特にありませんでした。若手時代に経営者や起業家を近くで見ていて、「リスクをとって起業すれば、明日から社長になれるじゃん」と肌で感じていたんですよね。
たとえば友達と起業すればすぐ役員になれますし、反対に役職を落とせば大企業に入れるかもしれない。「自分にとって役職は重要じゃない」というマインドは、20代前半で形成されていたと思います。

ただ、上昇志向は強いタイプかもしれないですね。20代、30代と「もっとステップアップしたい!」というスタンスで、ずっと年を重ねてきたので。

高みを目指し、託された期待に応え続ける

-松井さんは巡ってきたチャンスをすべてモノにして、次々と「期待値の高い舞台に活躍の場を移している」という印象を受けました。

そうなんですかね。僕の場合、与えてもらった役割に対して、「期待に応えよう」と動き続けてきただけなんです。特に主張もなく、異動はすべて受け入れてきましたし。

会社って、代表者がすべての責任を負い経営していて、その権限で人を雇い、誰かの任命責任のもと僕らが動いているわけですよね。「自ら選んで会社員をしている以上は、代表の方針に従い、任命されたら期待に応えようとするのが当然」。これは、若手時代から変わらない僕の価値観なんです。
上から与えられた役割やポジションに対し、期待に応えられればステップが上がるし、応えられなければ下がる。そういうものだと理解しています。

-なるほど、たしかに。でも頭では理解していても、実際に松井さんのように動ける人はそう多くない気がします。

上からの指示に対して、「それは間違ってる」と反発してぶつかるケースもあるじゃないですか。僕の場合、そういうのが一切ないんですよ。その理由は、上司の指示に対して何も文句を言わずにやることが正しいと思っているから、ではないんです。指示があったときに、自分の意見や専門家の見解を収集して上司に伝えることはあります。上司がもしかしたら必要としている情報かもしれないし、その情報を知らない状態で出した指示かもしれない場合もあるので。ただ、このタイミング・この状況で、上司がこの指示をするということは、何か背景や意図があるかもしれないというのを想像してみると、単純に反発してぶつかる、とはならないんです。仮に納得できる背景や特別な意図がなかったとしても、自分で選んで今の環境に身を置いているわけですし、イヤなら独立すれば良い。
そんな考えなので、「いかに経営層の意向を汲み取って社員に伝え、組織を回していくか」ということを常に考えています。

-口調はとても謙虚でいらっしゃいますが、まさに「凄腕の参謀」ですね。

もしかしたら部下から見ると、つまらない上司かもしれません。僕のやり方を見て、「なんだ、上の言いなりにしか動けないつまらないサラリーマンか」と感じる人もいるかもなぁと。でも僕は、決してそういう意味で言っているわけではないんです。その部分の伝え方はうまくいっている実感があまりないので、これからの課題ですね。

歩みを止めない。会社の成長と共にキャリアを広げていく

-松井さんはこれまで、キャリアを一歩一歩踏み固めてこられ、しっかりと「今がある」という感じに見えます。40代以降はどのように見据えていらっしゃいますか?

ここ数年、40代後半〜50代の方々や、自分と同じようなポジションの方々にお会いすると、「そろそろキャリアのゴールを見据え、逆算して動こう」という話をちらほら聞きます。僕はいま43歳ですが、「自分がそういう世代に差し掛かっている」という実感は増していますね。

ただ、僕はまだ「逆算する」までに至っていません。もし今の役割を続けさせてもらえるのであれば、会社の成長とともに仕事の質を高めて人脈を広げ、より高みを目指してキャリアを重ねていきたいです。

-なにか具体的な展望はおありなんでしょうか?

僕の人生を振り返ると、「こんな仕事がしたい」「こういうキャリアを積みたい」といった明確な目標はずっとなくて、たぶんこの先も一緒だと思います。

ただ30代半ばの頃、前職の社長からもらった言葉がすごく印象に残っていて、今でも意識しています。「若さという価値はこれから失われていくが、60歳を過ぎても引退せずにキャリアを築く人には、人脈、健康、働き続ける意欲、この3つの要素がある」。この先も、この3つは大切にしていきたいですね。

あとは最近、経営者同士の繋がりでIPOやM&Aの相談をされたり、講演やセミナーに講師として呼んでいただくことが増えてきました。自分が未経験のとき、本当に多くの方から親切に教えてもらったので、今度は僕が知見を共有することで誰かのお役に立てれば嬉しいです。

インタビュー:村田真美 (株)Mana
編集:家本夏子 (株)エスケイワード
執筆:日向 みく

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