今回フィーチャーするのは、 スキンケアを主とした通信販売事業を行う(株)アイムの小野直樹さん。同社のICTソリューション部より「うちの部門のスター的存在」と推薦をいただいての登場ですが、当の本人は自身を「下支え屋さん」と表現される謙虚な雰囲気。このギャップはどういうことなんでしょうか?詳しくお話を伺ってみました。
Profile/ 小野 直樹さん:株式会社アイム 執行役員 ICTソリューション部長 (管掌)カスタマーコミュニケーション部 事業推進部 ※2023年1月現在
専門性を生かしたキャリアの道は、長く太くなっていく
—現在のお仕事についてお聞かせください。
(株)アイムの執行役員として、ICTソリューション部長、コールセンターやロジスティクスを担うカスタマーコミュニケーション部の管掌を担っています。香川県に本社があり、週の半分ずつ香川と東京オフィスを行き来しています。
—小野さんのキャリアのスタートは製造業でのシステムエンジニアだったそうですが、もともと情報通信系の専攻だったのでしょうか?
中学生の頃に父が買ってきたパソコンで簡単なゲームが作れるのを見て、その実現性が面白いなと思いました。その興味の延長で、高専 では電子制御系、プログラム系の勉強をしていました。
新卒入社の会社では、高速道路関連の料金収受システムの設計、自社が販売するプラントの営業や品質管理部門のシステム構築を担当。会社の事業形態が受注生産ということもあり、がっつりとものづくりに携わっていました。私の仕事に対する姿勢などは、ここでの経験がベースになっています。
—今の会社でのキャリアはどのように歩まれていったのでしょうか。
30歳で出身地である香川へのUターンを考えまして、香川県内で社内SEの仕事で探したところ(株)アイムの前身の会社に出会い、転職しました。当時、ホストコンピューターのシステムから、パソコン向けのシステムに置き換える(自社システムのオープン化)、という世の中の流れがあり、転職した通信販売の会社もそれを試みているところでした。半分進み、半分止まっていた、という状況のところへ飛び込むことになったのです。
システム構築は、作り手の思惑と使い手の要望がうまくかみ合わなくて、時に雰囲気が悪くなったりすることがあるんですけど、まさにその状態。双方の意図を整理整頓して、なんとか切り替えをすることができた、というのが最初の仕事でした。
その後はWebと電話注文の統合管理システム、コールセンター向けシステムなど、現行システムの基盤を構築。製薬系会社のグループ傘下に入った際には、通販事業移管の推進も担いました。システム開発に加え社内IT全般を担当するようになり、本社移転や東京オフィス移転なども実施。
2018年にはECサイト関連と情報システムへ総合的に取り組む部門として、ICTソリューション部を設立。コロナ禍でテレワーク環境の整備が必要となった時は、ゼロトラストリモート環境の導入なども推進しました。2022年以降はICT部門にくわえ、フルフィルメント(ECで商品が注文されてからエンドユーザーに商品が届くまで必要な業務全般を指す)の強化を推進中です。
「誰かに喜んでもらえると嬉しい」
—今回取材前に、小野さんのチームメンバーから「小野さんはICT部門の‘スター的存在’」という言葉をいただきました。皆から頼られる存在なのですね。
どちらかというと「下支え」ですね。表立って引っ張るというより、地道に両者の間に入って問題をつぶしていく、という感じです。
—これまでのご自身のキャリアをひとことでいうと、どんな言葉が思い浮かびますか?
難しい質問ですね…やはり「下支え屋さん」ですかね。
—小野さんらしいお言葉をありがとうございます。通信販売事業で、顧客満足を高めるためにすべてを統括するお立場ですよね。
フルフィルメントは、通信販売事業の基盤となるカスタマーサービス、物流センターやシステム統括ですので、基本的に商品の販売チームをしっかり下支えする、という役割ですね。
皆が働きやすいように社内の環境を整えつつ、最近ではデジタル系の社員教育制度をつくったりもしています。
—それはエンジニア教育のための?
いえ、全社員向けで、ITリテラシーを底上げする教育です。ベテラン勢にはITの基礎的なことから手厚く、新卒・若手の方には専門的な分野を必要に応じて、ということを行っています。
—小野さんのお話を伺っていると、制度を整えたり教育をしたりと、「会社を整えている」印象があります。先ほど「下支え屋さん」というお言葉もいただきましたけど、面白み、やりがい、使命のようなものはどのように感じていらっしゃいますか?
魅力については…新卒で入った製造業から一貫して、「ものづくり」の面白さを感じています。システムは「道具」なので、システムを介在させれば、これまで面倒だった作業が楽になったり簡単になったり、誰かを助けることになるんですよね。考え方として、「誰かに喜んでもらえると嬉しい」という思いが根本にあります。それまで不便に感じていたことを便利にする、ないものを作り出すことで、仲間である社員のため、その先のお客さんのためになることにつながるので。
これまでの経験すべてが、今に繋がっている
—これまでのご自身のキャリアを振り返って、転機となった出来事やエピソードはありますか?
3つありまして、最初は新入社員時代です。新卒で就職した会社は受注生産の製造業だったこともあり、徹底して「カスタマーファースト」、奉仕精神に溢れた企業文化でした。平たく言うと「お客様の要望を100パーセント実現させる、お客さんのために尽くしなさい」という考え方がベースにありました。
まずそこで社会人としての姿勢が埋め込まれた、というのが1つめです。
2つめは、社会人になって5〜6年経った頃のことです。仕事ができるようになってきて、それなりに愚痴を言えるようになってきた頃ですね。あるとき先輩に愚痴っていたら、「その反対のこと考えたらいいんじゃない?」みたいなこと言われて。例えば「○○さんのせいでプロジェクトが進まなくて嫌なんです」と言ったら、「‘うまくいかないこと’をいま勉強してる、と思ったらいいんじゃない?」と言われて。
「思考をプラスに変える術」を教えていただきました。そのときはそれほど衝撃を受けたような会話ではなかったんですけど、あとあと振り返ってみると、自分の考え方に影響を与えてくれた先輩からのひとことだったな、と思います。
3つめ、これは最近なんですけど、新部署の構築に関わったこと。ウェブ分析をして施策をじっくり進める、ビジネスを展開するためにどういうことをすればいいか、を考えることを「データドリブン」というキーワードで表現するんですけど、そういったことをやる新しい組織の立ち上げです。ゼロから1を作り出すことを、システム以外で初めて経験しました。
そもそもなぜウェブ分析が3つめかというと、最初の2つから繋がっているからなんです。「ウェブの分析」をするには、お客さんのことをよく知らなきゃいけない。それは「カスタマーファースト」の要素が多分に関わってきます。2つめ、「そもそもその機能がなくて困ってるんだったら、愚痴るのではなく、自分で作ったらいいんじゃない?」という発想。
私が過去に経験したことが今に繋がり、実現できたという思いがあります。
新部署がそれなりに機能しつつあるので、それが転機でもあり嬉しくもあります。
ひたすら仕事をした30、40代
—現在49 歳の小野さんの転機となった1つめ、2つめのエピソードが20代での出来事で、3つめは40代、これまでの経験すべてが統合された集大成となった、と受け取ったんですけど、その間の30~40代を敢えて切り取るとどんな感じなんでしょうか?このメディアが40代に贈る、というテーマでお届けしていますので、30~40代の小野さんってどういう風だったのかな、と。
今回取材の話をいただいて「40代になって…」と振り返ってみたんですけど、ひたすら仕事してたんであまり実感がないというか(笑)。
30代〜40代は、プレイヤーとして走っていましたから。そういう意味では当時、同世代の人がテレビ番組などで特集を組まれたりするのを目にして、刺激になっていました。ホリエモンとかイチローさんとか、ですね。
—「テレビに映っているのはなぜ私じゃないのかな」、とは思いませんでした?
それはないですね(笑)。でもそこで、自分の「存在価値」を意識するようになりました。まだまだ「影響力」という意味では小さいですし、自分が関係するところで「何に対して影響を与えられるか」と考えているところです。
—それは部下に対して、会社に対して、それとも社会に対して?
「部下と会社」ですかね。会社と仲間を下支えしていれば、そこから必然的に会社全体に対して役に立つことになるのかな、と。
灯台の明かりを灯し、皆で目的地へと進んでいく
—今後のご自身の展望などをお聞かせいただけますか。
先ほど話したように、自分たちの存在価値を示せたらいいなと思います。
現在はマネージャーという立場ですから、「現場が主体」となって、彼らがより活躍できる環境整備をして、チームの存在価値を底上げしていきたいです。
—そのために何か心がけていらっしゃることはありますか?
しっかりと目標を、例えるなら「灯台の光」となるような指針を示すよう努めています。目標となるゴールに向かう道筋はたくさんあるので、チームメンバーと話し合って、どこを通るかを決めながら共に進んでいきたいと思っています。
—灯台をどこに置くかによっていろいろ変わってくるかと思うんですけど、なにか判断基準はあるのでしょうか。
ビジネス的になってしまうんですけど、株主である親会社と執行メンバーで決めていくしかないかな、と。ただその先には、「お客様」という揺るがない存在があります。グループ全体で「健康」に着目している会社なので、世の中の人の健康に貢献するために、我々の通販部門は何ができるか、と考えていかなければと思っています。
—なるほど。ITの世界では日々新しいサービスがでてきたり概念が出てきたり、と情報のアップデートも大変だと思うのですが、小野さんが意識していることはありますか?
これはメンバーにもよく言ってるんですけど、とにかく課題意識を持つこと。そうすれば、その課題解決に必要な情報を目にしたときにアンテナに引っかかるはずなので。直接情報を仕入れるというより、課題感から引っかけて吸収していくようにしています。そのために、常に新しいことに取り組むよう心がけています。
—「課題」のタネはどういう基準なのでしょうか?
ひとつは自分が面倒だと思うこと。あとは周りの人が困っていたり、不便そうにしていることです。
—マネージャーという立場になると、何かを実現する際に自分ひとりでやる、という機会少なくなってくると思うんですけど、周りの人に一緒に動いてもらったり、巻き込んでいくようなところで、何か小野さんが心がけていらっしゃることはありますか?
「目的意識をしっかり持つ」ように繰り返し言っています。担当者になると、仕事が進んで行くうちに「目の前の業務」が目的となってしまいがちです。そこはもう口うるさく、「本来の目的」を常に意識してもらうようにしています。
自分で気づいてもらえるように、というのがポイントです。やらされ感があると本人が面白くないでしょうし、主体性を持つ、という視点が大事ですね。
本社は香川ですが東京オフィスにもメンバーがいますので、物理的な距離だけでなく、心の距離にも気を遣います。コロナで緊急事態宣言が出たときは、仕事自体はちゃんとできるんですけど、それ以外のことができていなかったな、と後で気づきました。
今のメンバーはビジネスチャット等でも十分言葉を交わせる人たちなので、その点ではすごく助けてもらっています。あとは出張時には一緒にランチに行って話を聞くようにしています。だいたい仕事の愚痴が多いんですけど(笑)
—言葉を選びながら、ひとつひとつ丁寧に答えてくださる小野さん。メンバーの方たちから慕われるお人柄が伝わってくるインタビューでした。
インタビュー・執筆:村田真美 (株)Mana 編集:家本夏子 (株)エスケイワード